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THE W2019決勝戦レビュー

 女性芸人の日本一を決める「THE W2019」の決勝戦が12月9日、日本テレビ系で生中継され、結成3年目のトリオ「3時のヒロイン」が優勝を果たした。

 拙ブログで今大会の優勝者を予想した記事で、私は3時のヒロインを推した。これで第1回大会のゆりやんレトリィバァ、第2回大会の阿佐ヶ谷姉妹に続いて3連続の優勝者的中である。誰か褒めていただきたいw

 

 それでは決勝戦のレビューをしていこう。今大会から対戦ルールが一新し、初めてプロの審査員制度が導入された。

 6人のプロ審査員(久本雅美、ヒロミ、アンガールズ田中卓志清水ミチコ笑い飯哲夫、ハイヒールリンゴ)と視聴者投票をもとにタイマン形式で勝敗を決するスタイルになったが、レビューでは私が独自に100点満点で各ファイナリストのネタを採点したのでそれを記しておく。

 

◆Aブロック

そのこ 86

にぼしいわし 88

123☆45 87

ハルカラ 90

3時のヒロイン 91

 

【そのこ】

 陸上自衛隊に16年在籍し、芸人デビューわずか半年でTHE W決勝の場を射止めた異色の芸人・そのこ。ネタは電車アナウンスにちなんだネタで、わりかしオーソドックスタイプか。

 新幹線の英語アナウンスでセクシーになるネタは、私も日帰り出張でよく新幹線を利用する身として笑えた。南国美女という感じのする、そのこのエキゾチックな風貌によく合ったネタだと思う。ただほかのネタは俺ははまらなかったな。東京を離れて久しいので、東京駅のアナウンスがもはやピンと来ないw あと黒柳徹子やタラちゃんのものまねも、そんな似ていなかったのが残念だった。

 

【にぼしいわし】

 私が今大会の台風の目に推していたのが、ゆりやんと同期のにぼしいわし。M-1グランプリ2019では準々決勝に進出し、その勢いに期待したのだが、どうもTHE Wの決勝戦ではM-1予選で評判の良かったネタをしなかったもよう。

 とはいえ、にぼしの「これは上の歯の仮面をかぶった下の歯で…」「もっとしっかり見てくれよ~フッ素がはがれるまでよ~」のボケの繰り返しには、あまりのしつこさに根負けする形で笑わせてもらった。この手のしつこさは、審査員の哲夫が属する笑い飯や千鳥に通じるものがある。むしろいわしのツッコミが弱かったと思う。もっと尖ったワードで突っ込むタイプかと勝手に思っていた。「あったかい牛乳入れたるから」あたりでセンスを出そうとしていたのかな。

 

【123☆45】

 かつてはM-1王者サンドウィッチマンと同じ事務所に属していた女性漫才コンビ。THE W2018の、あぁ~しらきに触発されw遠距離のハンデを乗り越えて決勝の舞台に躍り出た。

 岩手県野田村在住のイズミが方言を駆使して地方あるあるを語るほのぼの系の漫才…と思いきや、まさかのメタ展開に。「田舎=純朴」というイメージを逆手に取ったスタイルは、田舎出身の私にとっては「分かる分かる」と刺さるものがあったが、イズミがメタボケをやりだすとヨーコの都会的なツッコミの弱さが同時に出てきたな~て感じ。この辺は遠距離でネタ合わせした弊害が出たように見えて、もったいなかったかな。

 

ハルカラ

 女性の日常生活を切り取ったコントに定評のあるケイダッシュ所属のコンビ。メンバーの和泉はキングオブコント2018王者ハナコ・菊田の妻で、夫婦でのチャンピオンが期待されていた。

 実は私はハルカラのコントは初見。実際に見てみると、公園で出会ったママ2人のスレ違いを鋭く描写したコントで、アンジャッシュをほうふつとさせるものがあった。夫の不倫で離婚した浜名の発言一つ一つにおびえる年下ママの和泉。くっきりした瞳をパタパタまばたきさせ、大きな口をひきつらせる演技はコントの面白みを引き立たせた。

 

3時のヒロイン

 さて私が優勝者予想で推したトリオが登場。リーダーでツッコミの福田が「朝ドラのヒロインになりたい」というフリでトリオ漫才を行った。

 ネタは朝ドラあるあるにアメドラあるあるを混ぜていく展開。題材そのものは既視感がある。朝ドラネタだと解散したコンビだけどアロハとか、アメドラだと友近ゆりやんとか。しかし3時のヒロインは、ツッコミの福田の両脇のゆめっち、かなでに自由にボケさせるストロングスタイル。その手法に新鮮さを感じた。トリオ漫才でパッと思い浮かぶのは我が家や四千頭身だけど、彼らの漫才のボケは基本ローテンションだし。両脇のボケも手数だけでなく打率が高い印象。「溶けた鉄」は右中間を真っ二つに割るキレイな長打だったな。

 

◆Bブロック

おかずクラブ 85

はなしょー 92

阿佐ヶ谷姉妹 89

つぼみ大革命 90

紺野ぶるま 86

 

おかずクラブ

 まず「紐パン屋」の設定よw サングラスのゆいPがだるそうなトーンで「紐パンあるよ~」と声かけする姿に「こういうオッサンいるなあ」と共感してしまい、うっかり「紐パン屋」が実在するような錯覚に陥りましたw

 飛躍した作品世界にニヤニヤしながらコントを見ていたが、そのニヤニヤ以上の笑いがその後は出てこなかった感じだ。八王子はいい町だしw ただオカリナが「石原さとみを騙って紐パン100枚売る」という展開、後からすげえジワジワ来たわ。石原サイドにとっては風評被害以外の何物でもねえしw オチで「なぜオカリナが紐パンに固執したのか」という謎も回収したし、悪いネタではないが賞レース向きでは断じてないw

 

【はなしょー】

 今大会唯一の2年ぶり2回目、返り咲きの決勝進出。第1回大会では敬愛するニッチェに敗れたはなしょーだったが、まさにリベンジと呼ぶにふさわしい嫁姑コントだった。

 作品そのものの完成度については、決して高い方ではないと思う。ハンバーグからナイフが出てくるくだりは、少々強引ではあった。それを補って余りあったのは、姑役のはなのたぎった演技。「詰んだじゃーん」「戦うしかねえ」もそうだし、全力で土下座とかね。演者の熱量で泥臭く笑いをもぎ取るコントで、ほかにはザ・マミィの「松ノ門」も同タイプの作品と思う。はなの熱演で「豆腐の中に小型爆弾」のナンセンスな展開もすんなり入り込めた。嫁役のしょう子も(一見)気弱な女性の演技にリアリティーがあって、はなのボケを引き立たせていたなあ。

 

阿佐ヶ谷姉妹

 ディフェンディング王者の登場。リベンジに燃えるはなしょーに、妹の美穂さんがセーラー服姿で登場するという「学園コント」で迎え撃った。

 教師役の姉・江里子さんが盛大に噛んでいたw このコンビは去年の1本目も美穂さんがおもくそ噛んでいたな。ただ俺、最初美穂さんが「インフルエンザの娘の代わり」でセーラー服着てきたって設定が頭にすんなり入ってこなかった。子どもが息子か娘か、どっちやねんと迷ったのがある。それでも「他人の肩を借りて下足を履く」などボケの打率は高く、安定した作品。欅坂を踊りこなすクライマックスはさすがという感じだが、なぜかボーカルが下手だったな。歌うま芸人阿佐ヶ谷姉妹なのに。秋元に気を使ったのだろうかw

 

【つぼみ大革命】

 私が事前にBブロック勝者に予想していた9人組のアイドルグループ。VTRで応援コメントしていたブラックマヨネーズ小杉の髪形が、手塚治虫ブラック・ジャック」に出てくる可児先生に似ていて笑ったw

 既にネットニュースで「パクリ疑惑」のわいた美容室コント。作者はかつてグループに在籍した3時のヒロイン福田で、本人はtwitterで否定している。次々と担当者が変わる展開は「なるほどね」という印象だったが、通り過ぎながらマッサージをする店員のくだりは笑えた。個人的に、あそこからコントの軌道が乗った感じがする。ドライヤーのくだりに匹敵する、大人数を生かしてお客がもみくちゃにされるタイプのボケがもう一つ欲しかったかな。

 

紺野ぶるま

 ファイナリストで唯一の、初回から3年連続の決勝進出。ひとりコント師としての実力は既に認められており、結婚もした。今大会の大トリにふさわしい活躍で、すっきりとタイトルを取りたかったが…。

 卒業生を前に「働かずに暮らしたい」という願いとともに愚痴をこぼしだす教師。この着眼点は悪くなかったと思うんだよ。現代の教職員は過重労働が問題になっているからね。変型時間労働制の導入を巡る問題とか。そういうエッセンスをさらりと入れれば、教師の訴えが切実なものとして笑いに転化できたんじゃないかなあ。しかし紺野は心がポッキリ折れていたね。賞レース決勝であそこまで噴き出し笑いをするのも珍しいよ。

 

◆ファイナルステージ

はなしょー 91

3時のヒロイン 92

 

【はなしょー】

 Bブロックで怒涛の4連勝を果たし、勢いに乗るはなしょー。最終決戦の舞台は幼稚園で、はなは園児、しょう子は恋人に浮気された先生を演じる。しかししょう子は薄幸の役が多いなw よく似合うし。

 先ほどはハイテンションの姑を演じたはな。今度は幼稚園児役でさらに輪をかけたハイテンションの演技を見せるのかと思いきや一転、傷心のしょう子先生の異変を察して戸惑い、プレシオサウルスのおもちゃを駆使して激励する思慮深い子どもを演じてみせた。その演じ分けぶりは、若手コント師の中ではトップレベルではなかろうか。この幼稚園コントをもって、はなしょーという女性コンビのポテンシャルを思い知った次第だ。あと「トミオは俺のホットワードなんだよ!」も面白かった。

 

3時のヒロイン

 Aブロックをトリオ漫才で勝ち抜いた3時のヒロイン。今度は、はなしょーとがっぷり四つのコント対決に臨んだ。

 コントの大枠は、福田の恋人がゆめっちに浮気されてしまうという修羅場を描いたもの。ちょっとはなしょーと被るw 舞台のバックにはジュリア・マイケルズの「Uh-Huh」が流れ、サビの「アッハー」でゆめっちとかなでが踊り出す直球のナンセンスコントだ。この選曲は絶妙だと思う。曲のサビ前までは不穏なギターのメロディーが強調されていて、修羅場のシーンにピッタリなのよ。ピッタリと言うのもおかしいけどw 大サビでゆめっちのヘッドバンキングとかなでのダンスのコラボが決まったあたりが、勝負の決定打となったと思う。

 

 3時のヒロインの優勝で幕を閉じた「THE W」だが、この第3回大会について「レベルが一昨年、去年より上がった」という声がネット上で多く見られた。まあ第一に出場者の研鑽(けんさん)の結果だと思うが、俺は昨年まで副音声で参加した松本人志が今年は撤退したのが大きいとみている。

 松本はかつて、約30年前の自著で「女はお笑いに向かない」などとしたり顔で女性差別を公言していた人物。昨年の大会では「かなわない女芸人は?」と聞かれて「枕営業をする女芸人」などとほざいていた。女性芸人への侮蔑だ。

 こうも30年にわたって女性差別をまき散らした人物が去年一昨年と副音声を担当していて、今年はいなくなった。決勝のレベルが上がったと思うのは、松本がいなくなったのが大きいと私は考える。松本の一つ一つの発言のせいで、女性芸人のレベルが不当に貶められていたんじゃないかな。てわけで「THE W」は、来年以降も松本のような人物を排除しながら大会を続けてほしい。