「セクシー田中さん」と日テレバラエティー
第1報に接したときは心臓がはね上がる感覚を覚えた。
「こんなことがあっていいのか」と思ってしまった。
漫画家の芦原妃名子さんが亡くなった。私より少し年上の50歳。自殺とみられている。
つい昨年の12月まで、芦原氏の原作作品の「セクシー田中さん」が実写ドラマで放送されていた。つい数日前まで、芦原氏とドラマ脚本を担当した相沢友子氏の間でやりとりが交わされたことは既に報じられている。
私は「セクシー田中さん」の原作本を4巻まで読んでいたが、続巻を読むのを中断していた。(この作品は、完結してから読むのが良いだろう)と考えていたからだ。主人公の田中さんはじめ各キャラの人物描写が濃密で、連載中に読むと各キャラに感情移入しまくって疲れるという判断をしたのだ。
「セクシー田中さん」の結末は、もう読めなくなった。ひたすら残念である。ドラマを制作した日本テレビは、速やかに第三者の協力も得て真相究明に取り組み、その結果を記者会見で洗いざらい報告してほしい。
日テレが制作局ということで、過去のバラエティー番組のことを想起せざるを得なかった。「電波少年シリーズ」と「ウリナリ」である。
どちらも土屋敏男プロデューサーの担当。電波少年シリーズは「拉致・監禁」の演出にみられるように若手芸人や若手俳優、若手ミュージシャンをおもちゃのように扱い、人権を蹂躙(じゅうりん)するのが常套手段であった。
電波少年シリーズの「代表作」の一つは、なすびの懸賞生活だろう。裸一貫でアパートの部屋に軟禁され、せっせと懸賞はがきを申し込む日々は昨年、イギリスでドキュメンタリー映画として発表された。観客にはショックを受けた者もいると報じられている。基本的人権を侵害している、そう受け取る人が多数いたのだろう。それは当然のことである。
翻って「ウリナリ」。番組の目玉の一つが、ポケットビスケッツとブラックビスケッツの対決であった。
ここでもポケビの千秋が、当時の実情を暴露している。プロデューサーが対決を盛り上げるため、千秋に「ビビアンが千秋を嫌っている」という趣旨の嘘を吹聴したという。プロデューサーとは、おそらく土屋氏だろう。それをきっかけに、千秋はもともと仲の良かったビビアンと当時は疎遠になったと語っていた。
「セクシー田中さん」も、原作者の芦原氏と脚本家の相沢氏との間を調整するプロデューサーが、その役割を果たしていなかったとの推測も上がっている。バラエティー班とドラマ班の違いは当然ある。意図的に演者同士の不仲を引き起こした土屋氏と今回の「セクシー田中さん」の件を同列に語るべきではないという向きもあろうが、私は「電波少年シリーズ」「ウリナリ」で温存されてきたバラエティー班の悪しき風潮と、ドラマ班の今回の取り返しのつかない歴史的な失態が地続きのような気がしてならない。
繰り返しになるが、日テレは早急に記者会見を開くべきだと思う。芦原氏と遺族への謝罪と、なぜこの事態に至ったかの真相究明に全力を尽くし、再発防止に努めることを約束してほしい。