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ものまねとGSの深~い?関係(「しんぶん赤旗」1月19日付「昭和歌謡わしづかみ考現学」から)

 今回取り上げるのは、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」で隔月連載している、ドーナツボーイズ(岡崎武志氏と郷原一郎氏)による企画「昭和歌謡わしづかみ考現学」の第2回。第1回は上京歌謡がテーマで、拙ブログでも吉幾三俺ら東京さ行ぐだ」をネタにしたナイツの話を書きました。

 この記事では「昭和歌謡―」2回目のテーマとなっているグループ・サウンズ(GS)と、私の好きなジャンルである「ものまね」との深い関係を探ってみたいと思います。といっても学術的な検証なんて私の頭では困難なので、「このGSバンドの曲をあの人がまねしていた」という話をつらつらと、「昭和歌謡―」の記事に沿いながら書きたいと考えております。

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(「しんぶん赤旗」1月19日付学問・文化欄から)

 連載で最初に取り上げているのはジャッキー吉川とブルー・コメッツの代表曲「ブルー・シャトウ」。替え歌が有名な曲ですが、実はものまねの歴史とも深い関わりがあります…と言ったらおおげさでしょうか。

 そのブルコメと関わりの深いものまね芸人は誰かと言えば、岩本恭生。その名前を聞いて意外に思う人もいるかもしれません。ガンちゃんこと岩本と言えばジュリー(沢田研二)のものまねで一世を風靡(ふうび)した人。ジュリーと言えばザ・タイガースでねえの? と思われる方もいるでしょう。

 岩本は1989年秋、四天王(コロッケ、清水アキラ、ビジー・フォー、栗田貫一)が全盛期だった「ものまね王座決定戦」に初出場ながら初優勝し、彗星のごときデビューを飾りました。その決勝戦で披露したのがほかでもない「ブルー・シャトウ」でした。この名曲をものまねし、得点は100点満点と文句なしの初出場初優勝を勝ち取った経歴があるのです。

 岩本は、この初優勝した回でジュリーのネタも当然披露していましたが、曲はソロ活動後の代表曲「ダーリング」でした。私の記憶では岩本がタイガース時代のジュリーをものまねしたのは、初優勝から2年半後の92年春のものまね王座1回戦。四天王のクリカン相手に「君だけに愛を」を披露しました。

 相手が相手だけに満を持しての「タイガース時代のジュリー」ネタを引っ提げた岩本でしたが、クリカン石原裕次郎ネタにあえなく敗退。この敗戦をもって岩本はフジのものまね王座を降板し、後年四天王のコロッケとともに日テレに移籍しています。

 

 「昭和歌謡―」で「最初のGS(「フリフリ」)」と言われているザ・スパイダースも、ものまねと関わりの深いバンドです。何と言ってもボーカルの堺正章は、多くの芸人にものまねされています。

 そもそもGSブーム(1965~69年)の数年後に生まれた私が、初めて「スパイダースの堺正章」を認識したのは、小学時代に見た小堺一機のものまねでした。堺と言えば「西遊記」の孫悟空であり、スパイダース時代など全然知らない私でしたが、子ども心に小堺のものまねは絶品だと思いました。代表曲「夕陽が泣いている」の歌いだし「♪ゆ、う、や、けえ~」を聞いた途端「あっマチャアキや!」と笑いましたからね。

 ものまね四天王の1人、清水アキラも堺をレパートリーとしていました。岩本が初戦敗退したと先述した92年春のものまね王座で、清水は決勝進出。クリカン松居直美ら強豪相手に「夕陽が泣いている」で勝負をかけましたが、歌詞を飛ばしてしまうという痛恨のミスを犯してしまいます。司会の研ナオコに「歌詞をクシャクシャやってるし…」とからかわれ、「セロテープを(顔に)張るのに気が行って…」と釈明した清水の姿が印象的でした。

 清水は堺の所属するスパイダースのリーダー、ムッシュことかまやつひろしのものまねも「ものまね王座」で披露しています。92年秋の王座準決勝、セロテープ芸に続く第2弾として顔に洗濯バサミを施し、ムッシュの垂れ目を表現するという荒業に臨みました。曲はソロ時代の「我が良き友よ」でしたが、99点の高得点でダチョウ倶楽部(この大会で初の準決勝入りを果たした)に快勝しました。

 清水が率いた「ザ・ハンダース」の同僚である鈴木末吉(現・鈴木寿永吉)は、スパイダースのもう一人のボーカル井上順をものまねしていました。これがまあ、似ていないのなんのw93年正月の「ものまね紅白」では審査員を務めた堺の前で披露しましたが、堺のつけた点数は10点満点の6点w鈴木のネタに対し、堺は「そんなに歌はうまくない」とコメントしていました。

 あと、タイガース時代のジュリーのライバルと目されていたザ・テンプターズショーケンこと萩原健一は、意外なほどものまねのネタにはされていません。テレビ東京の素人ものまね番組「全日本そっくり大賞」では、後にショーケン専門のものまね芸人となる庄野健二ら複数の出場者が彼のまねをしていましたが、曲は「愚か者」などソロ活動でのものに限られており、私の記憶ではテンプターズ時代のショーケンのまねは聞いたことがありません。

 

 ものまね芸人とGSという観点から言えば、ビジー・フォーのモト冬樹は外せません。何と言っても「ローズマリー」というGSバンドのギターを担当していたのですから。ただ本人もテレビの回顧番組でネタにしているように、デビュー時には既にGSブームが終了。それが彼のプライドに触るのかは定かではありませんが、冬樹がGSバンドのまねをしたという記憶はありません。

 

 GSのものまねが多くされていたのは四天王の全盛期も入る1980-90年の時期で、21世紀となってもうすぐ20年たつ現在ではあまりものまねの需要があるとみられていないのが現状のようです。しかし「昭和歌謡―」の連載で言われているように、今年2018年はGS最盛期からちょうど50年の年。「歴史は繰り返す」という言葉もありますが、今年を機にGSをものまねする潮流が発生しないかなと、かすかな希望を抱いている次第であります。

(文中敬称略)

ドリフのコントにも黒人差別はあった―菅家しのぶ氏への反論を主体に

 昨年末の「笑ってはいけない」(日本系)でダウンタウン浜田雅功が「エディー・マーフィーのものまね」と称して顔面に施したブラックフェイスの問題。その問題点については多くの方が既に指摘しているところですが、拙ブログでは、過去にもたびたび言及したことのある演芸評論家・菅家しのぶ氏(@Sugaya03)のツイートに絞って話をしたいと思う。

 菅家氏は、ブラックフェイスの問題が表面化して間もない時期にこのようなツイートをした。

 (菅家氏の1月2日のツイートから)

 一応前向きな言葉でツイートを結んでいるが、ここで問題なのは「日本には黒人を差別する歴史がなかった」と断言した点である。いったい、何を根拠にそう書いたのであろうか。

 私もtwitter(@masa10ishi96)で「昔から日本人でも色黒の人には『クロンボ』とからかって呼ぶ人がいるなど、黒人を差別する歴史はあった」という趣旨のツイートをした(実際はかなりはしょっているが)。拙ブログでは、お笑いのブログらしく「昔のバラエティー番組でも黒人差別は事実としてあった」ということを記しておこうと思う。

 その番組とはザ・ドリフターズの長寿バラエティー「ドリフ大爆笑」(フジ系)と、同グループの加藤茶志村けんによる「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」(TBS系)である。

 こう書くと意外に思う人もいるかもしれない。今回のブラックフェイス問題において、ダウンタウンの姿勢と対比する形で「8時だョ!全員集合」などドリフターズのコントを積極的に評価するコメントもtwitterで多く見られたからである。

 権力者として尊大に振る舞うリーダーのいかりや長介が、やがて子分の加藤茶志村けんに手ひどく仕返しをされるというのがドリフコントのお約束の一つだった。単純なイジメやハラスメントに終わらせない、一種の権力者風刺ともとれるコントを毎週披露していたのがドリフのすごみの一つであったことは私が書くまでもないと思う。ただ、そのドリフをもってしても過去をさかのぼればコントの中で黒人差別を行っていたことがあるのだ。

 

 1つめは「ドリフ大爆笑」。これは私が小学低学年ころに見た記憶があるので1982~84年あたりの放送であろうか。加藤と志村が海で水着美女をナンパする筋立てのコントだった。

 砂浜で甲羅干ししていた志村が、隣の美女にオイルを塗るよう頼まれ、ニヤニヤしながら女性の背中にオイルを塗る。それを羨ましがった加藤に、オイルを塗るようお願いの声がかかる。喜んで背中を塗ろうとしたら、背を向けていた相手は黒人女性だったというオチであった。

 加藤は「これはちょっとな…」と遠慮ぎみに苦笑いをしてやらなかったのだが、その黒人女性は子どもの私から見て美人でスタイルも良かったので(やればいいじゃん)と考えて笑えなかった思い出がある。当時は「差別」という言葉自体知らなかったが、差別的な意味合いの強いコントだったと思う。

 

 もう一つは「加トケン」の代表コント「探偵物語」で薬丸裕英がゲスト出演した回。これもいつ放送のものか記憶が定かでないが、シブがき隊が解散して間もない1989年ごろだったか。探偵事務所を営む加藤と志村が、新人の助手をオーディションするという回で、若き日の中村ゆうじや今は引退したしのざき美知も出ていた。

 薬丸はオーディションであっさり落とされるも、あきらめきれず女装(眼鏡のキャリアウーマン風)など別人を装い何度も面接に来る…という役柄。その変装の一つとして、薬丸は黒人に扮装したのである。服装は確かアフロっぽいカツラに帽子をかぶせ、ラフなTシャツを来ていたとうっすら記憶しているが、はっきり覚えているのは顔を黒塗りしていた点だ。まさにいま話題となっているブラックフェイスである。

 黒塗りの薬丸は外国人を装い、名前を聞かれると「ウイッキー丸!」とカタコトの日本語で答えていた。ウイッキーとは当時「ズームイン!朝」(日本系)でおなじみだったウイッキーさんから取ったのであろう。リアルタイムで見たときは中学生で、意表を突かれた分だけ少し笑えた記憶があるが、それでもやはり笑うのにためらいを感じたのを覚えている。

 今回の「ガキの使い」とは一線を画した笑いのスタイルを確立したという定評のあるドリフターズ(および加トケン)においてさえ、過去には黒人差別をコントに取り入れていた事実があったのである。そうしたコントが全国放送されていたことを私のようなもの覚えが悪い人間でも覚えていた。よって、菅家氏の「日本に黒人差別の歴史がなかった」などという言い分は、日本の長きバラエティー番組の歴史を紐解けば単なる認識不足としか言いようがない、ということは指摘しておきたい。

 

 さて「笑ってはいけない」のブラックフェイス問題が海外ニュースでも多く報じられるようになり、菅家氏は7日夜にこのようなツイートをリツイートした。

 (1月6日のツイートから)

 このアカウントのホームをのぞいてみたが、どうやらネトウヨのようである。ネトウヨの発言に同意と思われるリツイートをするなんざあ、菅家氏もヤキが回ったものだとあわれに思う。てか評論家失格だけどな。

 まあネトウヨどうこうは置いて上記のツイートであるが、正直言って変な反論だなという印象を抱かざるを得ない。「あのときに騒がなかったんだから、今同じことが起きても騒ぐな」ってんだろ? それ引っかかるよな。「2013年の秘密保護法制定に反対しなかった者が、2年後の安保法制制定に反対するのはおかしい」と言うようなものだ。あるいは「消費税8%への増税に何も言わなかった者が、10%への増税に反対するのはおかしい」とかね。

 別におかしくないけどね。

 一つの問題に対して認識があるきっかけで深まり、賛成から反対(もしくはその逆)に変わることなんてままあるだろう。調べてみればマツコがエマニエル坊やの黒塗りをしたのは2013年の年末らしい。それから4年の間にヘイトスピーチ規制法が自治体で制定されるなど、人種差別に対する監視の目は日本でも非常に広がっている。そらあ今回の黒塗りは、4年前と人々の受け取り方が根本的に違ってきまさあね。

 てか「笑ってはいけない」は2013年から黒人差別をお笑いにしてきたってことやんな。マツコのエマニエル坊やを引き合いに出した連中および同意とおぼしきリツイートをした菅家氏は、屁理屈こねて開き直りしないでいただきたい。

 

 おそらく「笑ってはいけない」のブラックフェイス問題はまだくすぶり続けるだろう。松本人志も7日の「ワイドナショー」(フジ系)で言及しなかったようなので、翌週コメントするかもしれない。

 というわけで、菅家さんの反論をお待ちしております。

勝手に芸人を表彰!ENGEI SHAMROCK AWORD2017

 昨年に続き、私「ENGEI SHAMROCK」ブログ管理人のマサトヰシグロシャムロックが勝手に今年のお笑い芸人のMVPと新人王と特別賞 を決める「ENGEI SHAMROCK AWARD」をやります。

 今回は前述の三賞とともに功労賞を設けました。

 さて昨年はMVPにハリウッドザコシショウ、新人王にカズレーザーメイプル超合金)、特別賞にBOOMERを選びましたが、今年はどの組が勝手に表彰されるのか?

 受賞結果は以下の通りです。

MVP 友寄隆英(通称ナスD、朝日系「陸海空地球征服するなんて」ディレクター)

新人王 アイデンティティ

    ペンギンズ

特別賞 空想大河ドラマ「小田信夫」(NHKテレビ)

功労賞 小松政夫

 MVPは、いろいろ選考を悩んだ末に12月29日放送の「無人島生活」スペシャルでも猛威を奮った「ナスD」ことテレビ朝日社員の友寄氏に送ることに決めました。「芸人じゃねえじゃん」というツッコミが聞こえてきそうですが、とにかく「陸海空こんな時間に地球征服するなんて」(深夜時代の番組名)でのアマゾンロケは、論より証拠の最たるものでしょう。私も、彼が現地で刺青の原料に使われる果物の汁を顔と全身にくまなく塗りたくってしまい、一夜で青黒くなった映像を見て、最初はドン引きしましたよ、ええ。

 ただその後もさして後悔する顔を見せず、アマゾンの酒屋ではアルコール度数50度はある地酒をまるでジュースのように飲み干す。それまで3日ほど不眠不休が続いていたおかげでアマゾン川渡航中に倒れるも、4日間の眠りから覚めてアマゾン川をまともに見られなかったのを子どものように悔しがる…そんなナスDの姿を見て、私も何か心を打たれるものがありました。

 「無人島生活」スペシャルの前日深夜に放送された特番では、よゐこ濱口がナスDとの因縁を語っていました。今はなき「いきなり黄金伝説」で、濱口と数々のロケをともにし、彼に無人島生活でのモリ突きを教えたのもナスDだったといいます。今回の無人島対決は、いわゆる格闘漫画でいう「師匠と弟子の対決」だったわけです。結局、対決は「師匠」の圧勝でしたが。

 よく俳優やミュージシャンをさして「芸人顔負けの○○」と語られる人はよくいますが、ナスDはそのラインとはダントツにレベルが違う、まさに「芸人キラー」と言えましょう。現在、テレビをつければどこにでも出てくる「芸人飽和状態」のショービジネス界において、ナスDはジョーカーのような存在感を放っています。

 7年前に、ナスDはとあるインタビューに応えています。

 記事はこちら。

www.oricon.co.jp

オリコンニュースから)

 インタビューで目を引いたのは「番組の視聴率が取れなくても、出演者に『もう一度あの人とやりたい』と思われればよし」という趣旨の発言です。もちろん視聴率を初めから取らなくていいと思っているわけではないですが、現在のテレビ業界で必要悪のように言われている「視聴率至上主義」や「旬のタレント消費」を乗り越えようとする姿勢に共感を覚えました。

 しかし昨今のテレビ界、顔も名前も有名なバラエティー番組のプロデューサーが増えました。同じテレ朝の加地倫三、TBSの藤井健太郎テレビ東京の佐久間宣行…。ナスDのような、凄腕のディレクター、プロデューサーがまだテレビ界には潜んでいたことに驚きました。来年は1月早々に「陸海空」でナスDメインのスペシャルが放送されます。彼のさらなる飛翔を期待して、ここにMVPを送ります。

 

 新人王は、まあMVPが芸人じゃないからというわけでもないのですが、2組選びました。ただこの2組も、今となっては説明は不要と言えましょう。

 野沢雅子ものまねでブレイクしたアイデンティティ、兄貴と舎弟のキャラ漫才で頭角を現したペンギンズ。どちらも今はなき朝日系「お願い!マンピンコン」で月間優勝を果たした共通点があります。爆笑問題のロケ番組「住んでみた」(朝日系)でもエース級として出演し、ロケ芸人としても定着しつつ彼らに新人王を送ります。

 

 特別賞は、芸人ではなくテレビ番組に。ネプチューン主演、そしてこのほど芥川賞候補にも選ばれた前田司郎氏脚本の「小田信夫」に送ることにしました。

 「小田信夫」は拙ブログでもレビューを書きましたが、とにかく初回の「城内の廊下グルグル」は見る者の度肝を抜きました。小田信夫を演じる堀内健の小気味いい演技も光りました。

 「小田信夫」は来年正月に再放送されるとのことで、新シリーズへの期待も高まります。ぜひとも前田氏に芥川賞を受賞してもらって、新作への弾みをつけてもらえたらと願います。

 

 そして今回新たに設けた功労賞は、日本が誇るギャグ芸人であり、喜劇人協会会長でもある小松政夫さんに送ることにしました。

 師匠である故・植木等との師弟愛を描いた著書を原作としたドラマ「植木等とのぼせもん」(NHKテレビ)が放送されたのは、記憶に新しいところです。あわせて、小松さんはインタビュー出演した日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版にて、自身が赤旗日曜版の読者であることを告白しました。齢75にして、芸人の気骨を見せる小松さんに、せんえつながら功労賞を送ります。

 

 今年も残すところあと四十数時間。早いもんですが、庶民の娯楽たるお笑いが2018年もとどこおりなく楽しめる世の中にしたいと思います。

 それでは皆さん、よいお年を。

M-1グランプリ2017決勝戦の感想その5

◆最終決戦

 この最終決戦が始まる前に、番組は長めのVTRを放送していた。内容は「ファーストラウンド1位の組が勝つとは限らない」という趣旨で、2008年のNON STYLE優勝の過去映像などを流していた。これがそのまま最終審査の結果に直結したとは思わないが、何か引っかかるものを感じた。

 

1組目

とろサーモン

 審査員の博多大吉が後の投票の動機に挙げた「こちらこそ」のファーストボケから、順調に笑いを生み出していった。個人的には本編前の肩がぶつかったくだりがすげえウケたが、本編の石焼きいもネタに入ってからも「すいもせん」などの久保田のとぼけたボケがクリーンヒットしていた。

 ただ久保田が教祖を演じてからのくだりが正直もったいない気がした。意図的に見る側を置き去りにするタイプのギャグだとは分かるが、賞レースの最終盤でやるのは結構リスキーだなと思った。リアルタイムで見たとき、私はあまり教祖のくだりは笑えなかったが、録画を見返すと観客は結構ウケているんだな。

 個人的な採点は90点。

 

2組目

ミキ

 スター・ウォーズのネタ。「インディ・ジョーンズ」主題歌のイントロを兄の昂生があからさまに「暴れん坊将軍」でやっているのは少々強引に思えたが、弟・亜生の誘導で翻弄される昂生の姿がファースト以上に滑稽に映し出された。

 ハイライトは光GENJIのくだり。昂生が光GENJIの名称をマジで間違えたのかネタなのか分からない感じで切れるとか、「パラダイス銀河」での昂生のスケーティングとか緊張感を忘れて楽しめた。ネタの時間が少し短かった気がする。

 個人的な採点は92点。

 

3組目

和牛

 旅館のネタ…ということで、とろサーモンの1本目と被っていたし、前半はかつての和牛のメインネタに見られた水田のモラハラキャラが前面に押し出されて、こちらとしてはファースト同様「大丈夫か?」との思いにとらわれた。

 しかし川西の研鑽(けんさん)のたまものであろうか、彼の演じる仲居のキャラが抜群に立っていた。水田の嫌味をカメムシに込めて投げ飛ばすくだりで一気にネタを軌道に乗せたように思えた。宿泊2日目の仲居のリベンジには私も手に汗握って応援したものである。←若干ウソ

 ただリアルタイムで見たときは「絶対和牛の優勝」と思っていたのだが、録画を見返すと後半の仲居のリベンジがやや物足りなく見えた。大会後にネットで話題になったが、和牛のこのネタは4分50秒ほどあったらしい。当然、大会規定とされている4分はとうにオーバーしている。宿泊1日目までの時間をかけすぎたように見える。拍手笑いが終わるのを待っているのも2カ所あった。そういう点が、私のような素人から見れば圧倒的に見えた和牛の2本目も、プロの審査員は違うものを見させたのかもしれない。

 個人的な採点は97点。これはリアルタイムで見たときの点数。見返すと、うーん、93点かな。

 

◆投票結果

とろサーモン 4票

ミキ     0票

和牛     3票

 

 とろサーモンがラストイヤー、初出場の決勝というチャンスをものにして日本一の栄冠を得た。リアルタイムで見たときは、和牛の優勝でないことには納得しかねるものがあったが、録画を見返すと審査員の春風亭小朝かまいたちに語った「勝ち切るネタ」が2本目でできていなかったのかなとも思う。聞けば和牛は予選初戦から決勝の最終決戦まで、すべて違うネタをかけるという試みをしたという。良ネタをいくつもそろえるポテンシャルに驚嘆するも、コンビで「これだ」と思える勝負ネタを作り切れなかったのかなという気もした。

 とにかく、遅れましたが、とろサーモンのお2人は優勝おめでとうございます。

THE W決勝戦の感想その5

◆最終決戦

 残った5組が勝ち上がりの早い順から2本目のネタを披露。全組のネタ終了後、401人の審査員が1組に投票して優勝者を決める。このシステムはアラがあるなあ。出番が早い方が不利になるし、ネタとネタの間にCMいちいちはさむので、やけに時間が長い。私は録画でCMをスキップできたが、生で見ると結構ダレがあったろうな。

 

1組目

ニッチェ

 ハートフルショートコントと銘打った一作。この手の賞レースでショートコントを集めるネタをやるのは、かなりチャレンジングではある。私の記憶では「爆笑オンエアバトル」のチャンピオン大会セミファイナルでアンジャッシュがやったな。「アンジャッシュドラマ」と銘打ったやつ。

 懸命に生きるシングルマザーの江上に娘の近藤がひねりのあるエールを送り、江上が顔芸をやるという力業を見せる。舞台が家の中に限定されていたので、三者面談の設定で学校とか、娘がいなくなって母親が町中を奔走するとかいろいろなシチュエーションで見せてくれた方が顔芸もワンパターンぽくならなかったように素人考えをした次第だ。

 最後は親子泣きながらのにらめっこで舞台が暗転し、終わりのドラの効果音が鳴るのだが、なぜかドラが鳴った途端に近藤が「アップップ」を中途半端にやめていたので気になった。別に続けても問題なかったが、「ドラが鳴ったらネタは強制終了」というルールでもあったのだろうか。

 個人的な採点は88点。

 

2組目

アジアン

 2人そろってのテレビ出演は約3年ぶりも、本日2本目とあって固さはファーストより取れ、のびのびと馬場園がボケていたのが印象に残った。「♪おとなの人~」のメロディーラインは不気味ながら耳に残るキャッチーさがあり、繰り返しでラッパーのようなフェイクを足すなどアジアンらしい悪ノリ感が心地いい、減点の少ない安定感のある漫才だったと思う。

 ただ思い返してみれば、M-1で春風亭小朝かまいたちに語っていたような「勝ち切るネタ」だったかというと疑問が残る。

 個人的な採点は93点。

 

3組目

牧野ステテコ

 ネタ後に審査員のヒロミが「まさかまたポールを持って来るとは…」と言っていたが、私としては「やるならポールネタしかないだろう」と思っていた。中村涼子との接戦を制して勢いのあるネタだし、2本目なら予備知識のできた観衆もより受け入れやすくなっていただろうから。

 果たして、2本目のポールダンスネタは1本目よりも予想以上に良かった。最終決戦に残って手ごたえをつかんだのか、ネタのキレやネタ後の一言が1本目よりも仕上がっていた。中でも「社長、初めまして」パンチラインだったと思う。

 個人的な採点は92点。

 

4組目

まとばゆう

 ネタは「イントロソング」。既存曲のイントロに自作の詩を乗せて、歌い出しにつなげるというゲーム性のあるネタで、ある意味ジャルジャルの校内放送や、今回の押しだしましょう子とも通じる部分があるかな。

 ネタ(曲)によって面白さにムラが出たかなという印象。放屁という下ネタに絡めた「タッチ」や、風刺(天下りや舛添の温泉ネタ)を込めた「ドラえもん」は掛け値なしに笑えたけど。そう言えば、ここ数日ウーマンラッシュアワーの「THE MANZAI」での風刺ネタが賛否両論を呼んだが、まとばみたいに軽快なメロディーとボーカルに乗せてあえてサラッとやるスタイルの方が、風刺で人を笑わせるのに合っているのではとふと思った。ラストの星野源「恋」は、ちょっとトリに持ってくるには弱いネタで残念。

 個人的な採点は89点。

 

5組目

ゆりやんレトリィバァ

 ネタ後に司会のチュートリアル徳井義実をして「あいつはテレビ朝日出入り禁止でしょうね」と言わしめた禁断のドラえもんネタ。若干前の出番のまとばゆうと被っているが、それもなんのそので笑いをかっさらった。特にtwitterのくだりは切実そうで笑えた。ニッチェの江上が「相当ストレスたまってんだろうなと思った」とネタ後に心配のコメントを出していたのが物語っている。

 ただ途中で、「ぼく」と言うべきを「わたし」と言って慌てていたのを受けて、私は「ネタを飛ばしたのか?」と思った。ネットの感想を拾うと、あれは台本通りらしいのだが(予選でもやったネタなので知っている人がいても不思議ではない)、その後のセリフ回しももたついているように見えたので、私は録画を見ていてガチでとちったのかと勘違いした次第である。

 ただ、負け惜しみを言うわけではないが、やはりトチリと思わせるくだりはなくて良かったのではないか。直前のtwitterネタが非常に面白かっただけに、そこを省略してテンポよく自虐ネタを放り込んでほしかったという思いがある。オチらしいオチもなく、見終わりがふわっとしていたな。ゆりやんはこういうネタ多くね。

 個人的な採点は90点。

 

 さて全組のネタがつつがなく終了し、審査員の投票結果は以下の通り。

優勝 ゆりやんレトリィバァ 201

 

2位 牧野ステテコ 89

3位 アジアン 47

4位 ニッチェ 33

5位 まとばゆう 31

 

 個人的に戦前の予想で優勝に挙げていたゆりやんが、実際には過半数の票を得て初代女王に輝いた。まあ納得の結果と言えよう。今年ももうすぐ終わり、年が明ければR-1の予選がすぐに始まるが、「THE W」初代女王のゆりやんはどうするのか。3年連続R-1ファイナリストの面目にかけて、2冠を狙いに来るのか。

 そういう意味で、2018年のお笑い賞レース界は目が離せないと言えよう。とにかく、ゆりやんはおめでとうございます。

「THE W」決勝戦感想その4

◆ファーストラウンド

第5試合

どんぐりパワーズ(ワタナベエンターテイメント)×ゆりやんレトリィバァ(よしもとクリエイティブエージェンシー)

 ファーストラウンドのトリとなる第5試合、先攻はコンビの合計体重200キロ超をウリにしている、どんぐりパワーズ。肥満外来に来た患者と看護師、という一見目新しい設定に引き込まれるものこそあったが、ナース役のみなこが患者役のあいこを、その説得力のない体型で治療へと激励する展開に終始するという内容には食い足りなさが残った。

 ただナース役のみなこは、体重103キロのあいこより若干軽い100キロでありながら二の腕のダルンダルンぶりとか後ろ姿のフォルムとかに特徴があり、その特徴をうまくネタに織り込んでいたと思う。後ろ姿での説教など、カメラワークもよく計算されていた。一見変哲のないネタを、演者の特性(てか体型だが)を最大限に生かすことによってオリジナリティーを高めていたと思う。それでもネタの途中で差し挟まれる「ねえ?」は、ジングルとしても弱いと感じたが。

 個人的な採点は83点。

 後攻はR-1ぐらんぷり3年連続ファイナリストであり、優勝候補に目されているゆりやん。アメリカの女子学生「ユリヤン・ターナー」に扮し、ミスコンに出場して懸命に自己アピールするネタだ。

 ネタのスタイルそのものは、初めて彼女が決勝に上がった2015年R-1のファーストラウンドでやった受賞コメントのネタに酷似している。また、ネタの使い回しも見られた。アメリカ人女子学生が別れ際に翌日の待ち合わせ時間を確認するネタだが、これは2015年R-1の最終決戦で既に披露している。正直言って最終決戦に向けてネタを温存したな、という邪推もしたくなったが、それでも流暢な英語の合間にうざい関西弁を入れてくるスタイルは鉄板で笑いを取れると再認識した次第だ。

 個人的な採点は88点。

 果たして審査員の投票結果は、どんぐり56票×ゆりやん345票。ファーストラウンドで最大の票差をつける貫録を見せて、ゆりやんが最終決戦へ最後の勝ち名乗りを挙げた。

 

 改めて、最終決戦の進出者は次の通り。

 

ニッチェ

アジアン

牧野ステテコ

まとばゆう

ゆりやんレトリィバァ

 

 改めて、牧野ステテコの名前の異色さが目を引くwこの5組が立て続けにネタを披露し、初代の「THE W」王者が決まるのだ。試合消化の早い順のため、ニッチェやアジアンは不利、ゆりやん有利の流れが予想されるが果たして?

 

 続きます。

「THE W」決勝戦感想その3

◆ファーストラウンド

第4試合

まとばゆう(フリー)×押しだしましょう子(フリー)

 事務所に所属していないフリー芸人同士の対決。と言っても、まとばはR-12015覇者じゅんいちダビットソンのいるアミーパークに所属した経歴を持つが、押しだしまは鳥取市役所職員が本業というゴリゴリのアマチュア芸人。大会前から「にゃんこスター」枠的な注目を受けていた出色のファイナリストである。

 先攻のまとばは、自信作と思われるネタを投入。「♪手短に~」というキャッチーなジングルを使い、洋画やテレビドラマ、アニメの名作をその主題歌のメロディーに乗せて紹介した。

 4分の持ち時間で、数えてみると実に14本の作品を紹介し、かつ「手短に」毒を混ぜながら軽快に笑いのポイントを稼いでいく。特に面白かったのは「うる星やつら」での「♪すべては男子の妄想」だ。

 聴いていた人は「おいおい、『うる星やつら』は女性である高橋留美子先生の作だろう」と一瞬戸惑ったであろう。しかし、この歴史的な漫画、そしてアニメが世間に発信されたことで、現在の美少女ゲームの「さえない男子の前に美少女がぞろぞろ出てきて求愛する」てな基本設定が形作られたとはいえないだろうかwまとばはさらりとキーボードを弾きながら歌いこなしているが、なかなかに複雑で高度なギャグだと思った。

 個人的な採点は91点。

 後攻は押しだしま。準決勝において、歴戦の勇者おかずクラブを驚愕(きょうがく)させた彼女のネタは「ちゃんこ鍋の具材をトーナメントで決める」というものだった。

 正直言って、予選の段階でこのネタを彼女がやっていると聞いたとき、すげえツボに来たwこういう架空の遊びをそのままピン芸のネタにしてしまうというのは、ある意味今年のM-1でジャンルジャルがやった校内放送のネタとやっていることが近い。しかも押しだしまの場合、架空のゲームの題材が「ちゃんこ鍋の具材」である。この発想、今大会の「THE W」においては屈指のアイデア力とは言えないだろうか。

 ふたを開けてみれば、アマチュアなりのネタの詰めの甘さを感じた。準決勝(押しだしまは準々決勝と誤っていたが)を雑に省略したのはもったいなかったし、決勝の豚×蟹ももう少し対戦に見せ場が欲しかったところだ。ただ優勝の決め方の投げっ放しぶりを含め、何だか票を投じてしまいたくなる危うい魅力に満ちたネタをアマチュアの彼女はやり切ったと思う。

 個人的な採点は92点。

 審査員401人の投票結果は、まとば286票×押しだしま115票。まとばがキャリアでの一日の長を見せつける形で快勝した。しかしタレント審査員の新川優愛は、押しだしまのネタ後は涙を流して笑うほど彼女のネタにツボッてしまっていた。その光景が自然に受け入れられるほど、押しだしまのネタも爪痕を確実に残したと思った。

 

 続きます。