無料カウンター

キングオブコント2017決勝戦の感想その5~菅家しのぶ氏のゾフィー擁護について

◆ファイナルステージ

アンガールズ

 リアルタイムで私はTwitterでKOC決勝戦のネタを逐一実況していたのだが(たとえばアンガ1本目のときは「ナンパのネタ」など)、この2本目はいったいどういうテーマのコントかは冒頭の田中と山根の出会いではスッと分かりにくかった。ただくたびれたジャケットに野球帽を被った田中の姿は変質者にしか見えなかった(失礼)ので、その後の不穏な展開は十分に予想できた。

 果たして田中の正体は、山根の妻を10年間愛したストーカー。ただしつきまといの相手は妻・マユミではなく山根だったというね。まあ冷静に考えれば怖い以外の何もんでもない。「俺は法律の中で暴れているだけ!」て田中のセリフもつい力業で笑わされたが、東京都民なら迷惑防止条例で訴えられるケースだと思う。まあ法律と条例は違うと主張する人いるかもだけどw

 貯金を切り崩して山根をストーカーし続けたが、とうとう貯金が底を果てたことにより敗北宣言をする田中。悪人になりきれない悲哀を描いたアンガールズらしいコントと言えるが、個人的にはもっと田中が追い込まれた状況に陥っていた方が面白かったかな。貯金はとうに底をついて、街金に手を出してしまい追い込みかけられ、山根に会ったのも借金取りから逃げながらだった…みたいなね。

 審査員の合計得点は452点。1stステージと同じ得点で、合計904点。

 個人的な採点は89点。

 

ジャングルポケット

 こちらはコントの定番、人質コント。ある組織に監禁された斉藤が、ボスのおたけ、子分の太田にいたぶられて麻薬取引の現場を吐くよう強要される。

 柔道の達人で鳴らす太田が黒タンクトップでムキムキの筋肉を誇示しながら、斉藤をロッカーに何度もたたきつける。痛そうなのは斉藤の苦悶の表情からも伝わってくるので、彼が自分の命よりもロッカーに叩きつけられるのを嫌がるというこのコントの笑いどころがすんなり伝わってきた。

 コントは斉藤と太田のいたちごっこのやりとりを通じて、おたけが「やめろ!」と太田を制する言動にあるからくりが存在していたことが分かる。このネタがバラされた場面、私は心の中でヒザをたたいた。だてに3年連続決勝進出、昨年はデッドヒートで準優勝に輝いたトリオじゃねえなと感服した次第だ。

 ただこのネタバラシはもっとコントの中盤にやって、もっとおたけの「やめろ!」をいじってほしかった。ちょっとネタバラシが遅かった。オチも微妙だったけど。

 審査員の合計得点は458点。1stとの合計で910点。

 個人的な採点は92点。さっき書いたようにネタバラシをもっと早めて遊んでくれれば、あと2~3点は上積みあったかもしれない。

 

 さてネット界では高名な演芸評論家で鳴らす菅家しのぶ氏が、ゾフィーのコントを擁護するレビューを書いたので私もそれへの見解を述べておきたい。もともとこのブログを始めたのも菅家氏が「風刺ってよく分からない」と書いたことへのアンチテーゼとしてなので、少しご容赦願いたい。

 菅家氏のゾフィーのコントを擁護したレビューはこちら。

sugaya03.hatenablog.jp

 菅家氏はゾフィーのコントで、上田演じる息子が「母親≒メシ」の扱いをしたことに多くの批判の声が上がったことについて「流石に今の時代の視聴者の創作物に対する抵抗力の無さに驚いた」などと皮肉めいた反論をしている。ここから私は彼の認識に疑問を呈さざるを得ない。

 世の母親の多くがどれだけギリギリの生活を強いられているか、その実態はあの「保育園落ちた 日本死ね!」という流行語大賞を獲得するほどのパワーワードからも分かるだろうに、なぜ菅家氏は女性の家事労働の報われなさ、過小評価を矮小(わいしょう)化するのか。一社会人として理解に苦しむところだ。ゾフィーのコントでの上田の「母ちゃん≒メシ」という言動に多くの方が批判の声を発したのには、私は菅家氏とは逆に世論の健全さを少し感じた次第である。

 なぜかと言えば、「炊事洗濯、家事は女性がやるもの」という主に男性側の認識が現代日本で圧倒的な「正論」と思われているからだ。菅家氏は、ゾフィーのコントで家出した母親をおそらく専業主婦であろうと仮定していたが、それは甘い認識だと言わざるを得ない。

 私の両親のケースで恐縮だが、私の父親も母親も定職についていた。いわゆる共稼ぎというやつである。ただ私が中学時代に部活を終えて帰宅したとき、いつも夕食の支度をこしらえていたのは労働を終えて疲れているはずの母親であった。父親が母親の代わりに厨房に立って夕食を用意したことなど、1回としてなかった。それどころか、夕食後の食器の洗い物すら父親はやったことなかったぜ。

 私の両親のようなケースは、決して珍しくなかったと思う。専業主婦だろうが働いていようが、女性は夫と子どもがいる限り「メシを作る存在」として認識されてしまう。ゾフィーのコントが風刺として成立足り得るためには、そうした母親が虐げられている家事労働の実態を訴えていなければ成り立たないと思う。

 ただゾフィーのコントは、いろいろ惜しい部分もあった。妻の書き置きを読んだサイトウ演じる父親はショックに陥り、上田演じる空腹を訴える息子に自ら料理を用意することができない。それどころか息子に黙ってカップめんを食し(インスタント食品に頼るのだから自炊はできないのであろう)、それが息子にばれたら言い訳に終始するなど父親としてダメな部分はよく描写されていた。

 やがて家出中の母親は息子の上田の携帯に電話する(上田は母親を「メシ」と登録していた)。即座に電話を代わった父親が謝罪するのだが、この電話で「母さんがいないと、私も息子もメシがろくに食えないんだ」と言っていれば、コントに批判の声を上げていたお母さん方もそれこそ溜飲が下がったことだろう。

 ただ菅家氏は、女性の家事労働における根本的な問題には目もくれず、上田演じる息子の異常な言動だけに着目して「風刺としてよくできたコント」に結論付けている。正直言って、上田演じる息子のような人物はそうそう世の中にいるとは思えない。というか、母親を「メシ」扱いする「大人」(性別問わず)は、子どもの何十倍も日本にいるだろう。風刺の対象にするなら、子どもではなく大人である。

 キングオブコントを放送した同じTBSが世に送り出した名ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」でも、家事労働の理不尽さは新垣結衣の熱演を通して人口に膾炙(かいしゃ)されていたのだから、ゾフィーのコントにはあえて厳しい目を向けることこそが演芸評論家に求められるのではないかと思う。

 まあ菅家氏は「差別と黒人が嫌い」などというクソツイートをする御仁なので(シャレのつもりかもしれんが、それがシャレになると思っているのなら痛いとしか言いようがない)、あまりリアクションには期待しないが。

ゾフィーの項目を10月9日に加筆修正)

キングオブコント2017決勝戦の感想その4~ゾフィーの炎上コントについて

◆ファーストステージ

・アキナ

(決勝戦2年ぶり3回目の出場、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属)

 昨年はM-1グランプリのファイナリストにも選ばれた実力者・アキナ。今回の決勝前の予想で、私は彼らをファイナルステージ進出5組の中に挙げていた。

 アルバイトの先輩、山名の異常行動におののく後輩の秋山。その奇行の数々を聞き覚えのあるBGMでショートコント風に積み重ねていく。にゃんこスターの直後という不運極まりない出番であったが、強度のあるネタで笑いのポイントを稼ぐあたりは腕の確かさを覚えた。

 ただ見返してみると、意外と山名の奇行というかボケにムラがあったように感じた。序盤のバスケットボールを取ろうと見せかけて退場とか、まあ後輩とコミュニケーション取るためにあえてギャグ的にやったとも受け取れるんだけど、誰のかも知らない携帯に出るとかはシャレにならんからな。笑っていいのか引き笑いに持って行きたいのかよく分からないボケが続いた。最後の名字を問うくだりは「それがオチ?」と思わなくもなかったのよね。

 審査員の合計得点は432点。暫定7位。

 個人的な採点は88点。

GAG少年楽団

(決勝戦初出場、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属)

 懐かしの爆笑オンエアバトルでは強豪の一角として活躍した彼らが、悲願のKOC決勝進出。元ネタとおぼしきあだち充「タッチ」のその後を描いたかのような三角関係のコントで勝負をかけた、のだが…。

 幼なじみの男性2人の名前を「シュン」「ジュン」と似せるなど、設定は細かい(ちなみに宮戸演じる女性の名前はヒロコ)。幼なじみのそれぞれが女子高の校長、建設会社の社長、大学病院の院長と「長」がつくいわゆる名士と呼ばれる人物であるにもかかわらず恋愛関係は一向に成長しない…というギャップも引きつけるものがあった。

 ただし後半が全く伸びなかったな。コント的な動きでシュンとジュンが追っかけっこし、ヒロコが「何で殴り合わないの~」と嘆くくだりは、明らかにスベッた感じになっていた。テレビ越しに見ている私が「あースベッたなあ~」と思ったくらいだから、会場はキンキンに冷えたのではなかろうか。後半に畳みかけていくネタじゃないと、生放送の賞レースは勝ち切りにくい。それを感じさせたGAGの初決勝だった。

 審査員の合計得点は419点。パーパーを下回り暫定9位の最下位。

 個人的な採点は86点。

ゾフィー

(決勝戦初出場、フリー)

 同じフリーのにゃんこスター(翌日にナベプロ所属となるが)とは違う意味で、ネタへの注目を集めることとなったゾフィー。ネタ前のVTRで、ボケの上田は1日8時間をネタ書きに充てていると紹介。ツッコミのサイトウはバイトから始めた職場で専務にまで出世し、金銭的に上田を支援していると聞いて「おい、マルクスエンゲルスの関係かよ」と私はひとり盛り上がってしまった。当然、ネタへの期待も高まったのだが。

 ネタの内容というか、息子役の上田が母親を「メシを作る人だよ!」と決めつけるセリフがネットの炎上を招いてしまったようだ。まああり得ることではある。かつて女性を産む機械などと誹謗中傷した閣僚がいたことを私は思い出した。

 ただし、上田演じる息子の母親に対する一連の言動は、私はそんなに責めるものでもないと思う。おそらく中学生くらいの設定だと思うが、部活をこなしてそこそこ遅い時間帯に帰ってきたら、そらあ腹は減っているし、当然あると想定していた夕食がなければ文句の一つも言いたくなるだろう。

 むしろ問題なのはサイトウ演じる父親の対応である。母親が家出したという非常事態においても、子どもが空腹を訴えているなら自分で夕食をこしらえるなり、出前を取るなり買い出しなりして食事を取らせるのが保護者としての責任であろう。

 それなのに無理に子どもを寝かせようとする、それでいて父親の自分はこっそりカップめんを食していて子どもに黙っている。揚げ句にラストでは「母さんが出て行ったの、おまえが原因かもな…」などと子どもに責任を転嫁する。

 いやあ、控えめに言ってもなかなかクズな父親だと思いますよ。客観的に見れば一番問題のある父親が一見まともな人物に描かれ、社会的な権力など一切ない子どもをことさらに異常な人物に描く。そういう点で、このコントには根本的な欠陥があったのではないかと私は思っている。当然、一部のネットで言われているような「風刺のよく効いたコント」などでは断じてないと言わせてもらう。

 あと息子が父親の食したカップめんの容器を見つけて(父親を糾弾する材料があったと)狂喜乱舞するシーンがあるが、私はてっきり未開封のカップめんがあったので「メシが食える!」と息子が喜んでいたのかと思った。ここは最初から容器を逆さにするなどしてカラをアピールするなど、芝居を分かりやすくしてほしかったところだ。このシーンで拍手笑いが起きるほど印象的な芝居だっただけにね。

 審査員の合計得点は422点。パーパーをわずか1点上回る総合8位。

 個人的な採点は85点。リアルタイムでは88点をつけたが、これはファイナルステージ進出の当落線上にいたのがジャングルポケット(90点)とアンガールズ(86点)ではなく、ジャンポケとさらば青春の光(89点)と勘違いしていたため。

 

 これにてファーストステージは終了。

 ファイナルステージ進出は、にゃんこスター(フリー)、かまいたち(よしもと)、さらば青春の光(ザ・森東)、ジャングルポケット(よしもと)、アンガールズ(ワタナベ)の5組に決定した。

 

 続きます。

キングオブコント2017決勝戦の感想その3~衝撃のにゃんこスター!

◆ファーストラウンド

にゃんこスター

(決勝戦初出場、フリー[決勝戦翌日にワタナベエンターテインメント加入])

 今となっては今大会の話題をかっさらった感のあるこの2人、正体不明のダークホースと目されていた戦前の評判がもはや懐かしくもある。ネタ前のVTRでは2012KOCキングのバイきんぐ小峠と伊集院光の絶賛、そして準決勝の彼らを袖で見たしずる村上の「コントの終わりじゃない…」という困惑の苦笑いで私を含め視聴者のハードルは上がりに上がり切っていたはずだ。そして結果、にゃんこスターの2人は見事にそのハードルを越えてみせたのである。

 刮目(かつもく)した点はいくつもある。まずネタ始まりのスーパー3助。

 「わーい! おーいらは縄跳び大好き少年、だよー!!」

 半ズボンの格好をした34歳のおじさんが全力で自己紹介、である。それまでエレベーターの到着待ちでイライラするジャンポケ斉藤や、鉄板餃子に「うまそうやったな…」と呟くさらば青春の光森田など神妙な芝居でコントを始める組が多い(というかコントの始まりは大体そうか)中、3助のこれである。見ている私は先制パンチを食らった次第だ。

 そしてアンゴラ村長の軽快なリズム縄跳び、サビの縄跳び捨てから謎のダンスにつなぐわけだが、このコンビの本領はむしろその後のくだりにあったと思う。大塚愛さくらんぼ」の1番が終わってしまい、2番の序盤は淡々とリズム縄跳びをこなすアンゴラ村長。ここでいったんネタが落ち着いてしまい、私は「1番のサビがピークで、これ以降はあまり面白くならないかな、結成5カ月だしそんなもんか…」などとリアルタイムで考えていた。

 しかし私は、己の不明を恥じることになる。ここで3助の大会屈指のパンチラインともいうべき戦慄のセリフが飛び出すのだ。

 「この動きを求めている俺がいる…この動きが頭から離れない…サビが来る!…待ってましたあー!!」

 先ほどからのいわゆる「凪(な)いだ」状態は、このパンチラインへの「溜め」になっていたのである。ここからが彼らのネタのセカンドインパクト。このセリフは観客への煽りも兼ねているわけで、もはや見ているこっちも「踊るアホウに見るアホウ」状態にさせられてしまう。勢いだけのネタに見せかけて(てか勝手にこちらが早合点していたこともあったが)、とんでもなく演出が練り込まれたネタである。

 2番の後半は村長が目をむきつつロボットダンス的な踊りを披露。ネタの構成的には「おまけ」の要素を感じたのだが、私はリアルタイムで見ていて「もっとくれ、もっとくれ」と思ってしまった。すっかり3助の状態であるw

 そしてしずる村上が苦笑いするしかなかったオチへ。いったん袖にはけた村長が、星の形を取った猫のお面を持ってくる。「おい…まさか…うわ、やりやがった!」と心の中で私は叫んだ次第である。テレビの前で見ていた私でさえこのラストに目まいがしかけたくらいだから、この後にネタ披露を控えたアキナ、GAG少年楽団ゾフィーの3組は両ひざをついてうなだれたのではなかろうか。知らんけど。

 ネタが終わり、さまぁ~ず大竹一樹は開口一番「何だよこれ!」とお手上げコメントをした。賛否両論待ったなしのネタなので、ファイナルステージ進出には絡む得点が出るだろうが、さすがに1位は…というのが私の審査結果発表前の見立てであった。個人的な採点は、かまいたちに次ぐ91点をつけた。

 ふたを開けてみれば審査員の合計得点は、466点。審査委員長のダウンタウン松本人志とさまぁ~ず三村マサカズがともに97点をつけ、にゃんこスターは堂々暫定1位をマークし、即でファイナルステージ進出を決めた。

 

 続きます。

キングオブコント2017決勝戦の感想その2

◆ファーストステージ

アンガールズ

(決勝戦初出場、ワタナベエンターテインメント所属)

 かつて「キモカワ芸人」の異名を取り、「ジャンガジャンガ」という謎のジングルを武器に2000年代前半のお笑いブームの中核を担ったベテランが、満を持してKOCのファイナリストに名乗りを挙げた。ネタ前のVTRで20代とおぼしき過去の彼らの「ジャンガジャンガ」している映像が流れたが、いやー細えなw

 そんな彼らが夢舞台のファーストラウンドでかけたのは海でのナンパネタ。これは年末年始でよく披露した作品のようだが、幸いなことに私は初見であった。

 海でのナンパが不首尾に終わった田中と山根。上半身裸の彼らの2ショット、ネタ前のVTRと比べるといくぶんぜい肉がついてだらしない感じになっているビジュアルに、時の流れを感じた。

 ネタそのものは、もともとはもっと長尺だった作品を4分に収めた感があって、これから盛り上がるぞと思ったところで終わってしまった印象が残った。ただネタ中、すごく共感を覚えたシーンがあった。

 ナンパに失敗して帰宅しようとした2人だが、田中は運悪く自身のバッグ-財布などの貴重品も当然入っていた-が盗難に遭ってしまう。当初はノーダメージを装った田中だったが、感情の堤防が決壊してしまい山根にすがりついて「悔しいよ~!」と号泣する。そんな田中を山根は戸惑いつつも「そうかそうか、強がっていたんだな…」と優しく受け止めるのであった。

 個人的に、このくだりは今大会の決勝で最も印象深いシーンだったりする。40歳をすぎたおじさんにもなると、悔しいことや悲しいことがあってもその感情をぶつける相手はどこにもいないものだ。ドラえもんも「おとなってかわいそうだね。自分より大きな人がいないもの」とてんとう虫コミックス16巻でおっしゃっているw

 そういう意味で、先ほど書いた田中の号泣シーンは心に残ったし、コンビ歴18年の積み上げのなせる業で生み出した名シーンだと思っている。山根はイクメンタレントとしても活動しているせいか、あんな頼りない体型(失礼)でも包容力があるなと感じた。

 審査員の合計得点は452点。ジャングルポケットと同点で、暫定2位タイに。

 個人的な採点は86点。結構褒めておいてこれまでの最低点数をつけたというねw

 

パーパー

(決勝戦初出場、マセキ芸能者所属)

 KOC開催10回目にして初めて決勝戦に進出した男女コンビの1組目が、ファーストステージ前半最後に登場。甲高い声のツッコミが特徴的なほしのディスコと、無表情で辛辣にボケる山田愛奈のコンビで注目を集めていた若手だったが、結果から言えばほろ苦い決勝戦となった。

 ネタ前のVTR、決意表明のシーンを含めてほしのは一言もセリフを発さなかった。これは2015年優勝のコロコロチキチキペッパーズナダル(およびツッコミでネタ書き担当の西野)が取っていた手法だ。ただしこの試みは不発。卒業式を舞台に、ほしのは制服の第2ボタンを誰にももらわれず友人と愚痴をこぼすのだが、その甲高い声には特に笑いは起きず。ここからほしのおよびパーパーは、いばらの道を歩むことになる。

 後輩の女子・山田が現れ、ほしのと2人きりのシチュエーションに。勘違いしたほしのは「取りそろえております」などと独特なワードセンスを見せてくるが、ここでも笑いは起きず。いくら若い女性の観客の多い会場とはいえ、KOC決勝でここまで笑いの起きないネタも珍しい。ほしののキャラが認知されていなかったのが大きいだろう。この点はアンガールズ田中とは天地の差を感じた。

 ネタをこなしながらそのドツボのはまりっぷりを感じたのか、ほしのは盛大なセリフの噛みをやらかしてしまう。悪いことには悪いことが重なるものだ。最後のセリフ「頭のおかしい人でしたね」も到底笑えるものではなく、いいところを探すのが困難なネタだった。

 審査員の合計得点は422点。これまでの最下位。

 個人的な採点は84点。

 

さらば青春の光

(決勝戦2年ぶり5回目の出場、ザ・森東所属)

 ミスターKOCとも言うべきコント師、悲願の初優勝へ2年ぶりのファイナリストに。居酒屋で晩酌を楽しんでいた森田の食卓に、店員の東ブクロ(この芸名しっくり来ねえなw)が頼んでいなかった鉄板餃子を持ってくる。森田は頼んでいないと指摘して東ブクロはその場を後にするが、ここで森田のつぶやく「うまそうやったな…」のセリフが秀逸。この後、森田の食卓に「間違って」運ばれてくる出し巻き卵やエビマヨネーズが、サンプルだろうにおいしそうに見えて来るから不思議だ。森田のオーダーを期待して後ろをゆっくり歩く東ブクロの姿に拍手笑いが起きた時点で、ファイナルステージ進出を確信した次第だ。うまいネタだと思う。

 ただコントの肝をなす「森田の食卓を経由したメニューが、他の客にもどんどん頼まれていく」というくだりには少々ひっかかりを覚えたかな。チェーン店とか大規模な居酒屋になると席を仕切っているし、同じメニューが気になって自分も頼むという連鎖反応は起きにくいのでは…などとよけいなことを考えてしまった。冒頭の森田の「うまそうやったな…」のセリフが心こもっていた分、ちょっとね。

 審査員の合計得点は455点。かまいたちに次ぐ暫定2位につける。

 個人的な採点は89点。

 

 続きます。

キングオブコント2017決勝戦の感想その1

◆ファーストステージ

1.わらふぢなるお

(決勝戦初出場、グレープカンパニーサンミュージック所属)

 本選が始まる前、私は律義に事前の宣伝番組を見ていた。女優の松岡茉優、タレントの武井壮、そしてモデルで大会アンバサダーの池田美優(みちょぱ)がそれぞれ過去の大会で好きだったコントを挙げていたのだが、武井が挙げたのが第2回準優勝・サンドウィッチマンハンバーガーショップコントであった。

 この約30分後に決勝初進出となるわらふぢなるおが披露したのが、インターネットトラブルの相談を受け付けるサポートセンターのコントだった。これがまあ、サンドそっくりなわけよ。ツッコミ役で、このコントではサポートセンターに電話する青年役を演じる口笛なるおグレープカンパニー所属でサンド直系の後輩(ちなみに芸名も伊達の命名)。こもった声、荒い口調でのツッコミは伊達そっくりだ。

 対してサポートセンターのオペレーター役を演じるボケの藤原。こちらも無表情で淡々とボケる様は富澤と通じるものがあったが、何よりこのコントではデタラメにパソコンキーを打ち込むボケがあって「あっ…」と思わざるを得なかった。直前に放送したサンドのハンバーガーショップコントで、やはり富澤がでたらめにレジ打ちをしていたからである。正直、わらふぢなるおの2人的には武井を恨みたくなったろう。まあ事前番組を見ていない人でも「サンドぽくね?」と思われていただろうが。

 コント後半はサンドそっくりなテイストからがらりと趣向を変え、顧客のなるおを藤原が監視しているかのようなサイコホラー的な展開に。ただこうした転調はうまくいった印象がない。もっと序盤に監視しているような伏線を思わせるポイントが欲しかったところだ。

 審査員の松本人志大竹一樹三村マサカズ日村勇紀、設楽統の合計得点は434点。

 個人的な審査の採点は87点。

 

2.ジャングルポケット

(決勝戦3年連続3回目、よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属)

 昨年の準優勝、個人的には今大会の優勝候補本命に挙げていたトリオが早くも登場。出番が早いのも何のその、高層ビルのエレベーター前で繰り広げられるスリリングな愛憎劇を見せてくれた。

 次々と明かされるカップルの秘密。それをとうとう聞き逃せず、大事な商談を捨ててエレベーターの中から見届ける斉藤と、中盤までのシナリオの盛り上がりは目を見張るものがあった。

 ただ後半は失速したかな。閉まろうとするエレベーターを十分に生かし切れていないと思った。閉まりかけのエレベーターを斉藤がスライディングして足をねじ込んで止めるとか、顔を挟み込んで止めるとかそういった荒業をクライマックスで期待した自分がいたんだよね。まあこないだエレベーターの事故があったし、あまりコンプライアンス的に無茶はできなかったかもね。

 審査員の合計得点は452点。

 私の個人的採点は90点。全くの余談だが、ゆうべの仕事帰りにこのコントでの太田の女装にそっくりな女性を見かけたwおかっぱヘアーにグレーのスーツのクールなキャリアウーマン。

 

3.かまいたち

(決勝戦2年連続2回目、よしもと・クリエイティブエージェンシー所属)

 ネタ前の紹介VTRで「関西のバナナマン」と言われているのには違和感を覚えた。また個人的に、かまいたちは伝説のコント「ホームルーム」をかけた昨年の大会で優勝すべきだと思っていたので、申し訳なかったが今年の彼らにはそんなに期待をかけていなかった。ファイナルステージは進むだろうが3位あたりを予想していた。優勝はジャングルポケット、準優勝はさらば青春の光とみていた。

 ただ私は、ファーストステージの彼らのネタを見て己の不明を大いに恥じることになる。ネタの完成度なら、過去のキングの作品とも全く見劣りがしないものがあった。今大会に限れば、出場した2477組の中でも最も面白いコントだったと今は断言できる。

 舞台は公園。さえない学生の山内が、クラスのマドンナに告白される…という練習を行っているのを同じクラスの濱家が目撃するという導入。マドンナ吉田さんをベンチに座らせようと山内がなぜかコテコテの関西弁を使うのを採用するところも十分面白かったが、ここからコントは怒涛の展開を見せる。

 さえないキャラのはずの山内が「般若の山内」という凶暴な本性を見せ、植え込みに隠れていた濱家とのスリリングなやりとりを展開する。いやあ、ドリフのコントを思い出しましたわ。「もう見えてんだよ!」と追い込みをかける山内、半泣きで動けなくなっている濱家。このくだりはドリフターズ加藤茶志村けんでやっても違和感なかったよ。素晴らしい。

 審査員の合計得点は464点。暫定トップ。

 個人的な採点は92点。まだ序盤だったのでわれながら抑えた感じはある。このネタがファーストステージラストなら95~96点はつけたかもしれない。

 

 続きます。

「LIFE!」(NHKテレビ9月18日放送分)

ひよっこプロローグ】

 三津谷寛治プロデューサー(内村光良)がひさびさに登場。朝ドラ「ひよっこ」の演出家(田中直樹)に彼は「国民の声」と前置きしつつ「なぜ『ひよっこ』というタイトルなのにヒヨコが出てこないのか」という、ほとんど難癖にしか思えないことを言いだし、演出の変更を穏やかな口調で強要する。

 こうしたパワハラに田中はなすすべなく要求をのんでしまうが、三津谷さんってこんなに強引なキャラだったっけか。

【奇跡の再会】

 アマゾンを研究中にスコールに降られた大学教授(内村)と助手(ムロツヨシ)。岩陰に雨宿りに駆け込むが、時を同じくして駆け込んできたのは教授の高校時代の級友だった写真家(古田新太)。二人は旧交を温め合うが…。

 ひさびさに会った人と思ったほど会話が弾まない…なんてのは非常にあるあるだと思うのだが、さすがにコントのネタとしては擦られ尽くした感がある。2人の子持ちという役柄の内村に対し、未婚という古田の長髪カツラを被った二枚目演技は微妙にイラッとするがw、雨が上がってからのオチにもう一ひねりあって良かったのでは。

【とどろけ!ファミレス塾】

 これ続くのかよwてか前回と2本撮りか。

 ガテン系の客(田中)に水のおかわりをするだけなのに、新人ファミレス店員の鈴木(中川大志)は白髪の病弱そうな見た目の先輩w(内村)とまたもや対決する羽目となる。前回の鉄板運び対決で敗れた先輩が「あいつは下っ端」的な言葉で今回の先輩に片付けられるのも往年の少年バトル漫画のお約束を思わせた。

 今回の対決は内村がワイヤーアクション(というほどでもないか)を使い鈴木を驚愕させるが、水を注ぐのが下手で田中を水びたしにする。てか今回の田中はパワハラされたりいろいろ大変だなw

 最後はこれもお約束の先輩店員(シソンヌじろう)の「死んでる!」からの内村生き返りで締める。散々な目に遭った田中は中川とじろうに詰め寄るが、ここでじろうが「サービス定食一丁!」の一言。どうやらアドリブだったのか、田中が少し笑っていた。相変わらずこのコントでのじろうは生き生きしている。

【きみの中のマーズ】

 臼田あさ美がひさびさの登場。顧客のロゴマークのプレゼンを控え、どの案を選ぶかで迷う若手社員(横浜流星)。先輩(塚地武雅、臼田)にアドバイスを求めるが、決め手を欠く。悩んでいるうちに、ブルーノ・マーズに似たムローノ・マーズ(ムロ)がダンサーを従えて登場し、軽快に若手社員を教え導く。

 演者が俗世をしばし忘れたかのように踊るナンセンスコントで、昔も今も視聴者が楽しめる内容だった。かつてのレギュラー放送でアクションに一抹の不安を残した臼田がきちんとダンスを踊れるのか気になったがw、特に悪くはなかった。まあオチは予想通りではあったな。

ひよっことひよこ】

 冒頭のプロローグを受けてのコント。田中演じる三津谷さんの無茶ぶりを受けた朝ドラ演出家が、急きょ脚本を変えたとヒロインみね子役の有村架純に告げる。

 そのシーンの中身は、昔みね子が飼っていたヒヨコと再会するというもの。当然、有村のマネジャー(塚地)は難色を示すが、彼女は「役者ですから!」と健気にチャレンジする。

 ふたを開けてみれば、内村の演じるヒヨコがもうデタラメすぎるわ(褒め言葉)。まあ全く沢村一樹じゃなかったけどw

 あとヒヨコのトレーナー役でじろうが出てきて、関西弁を操っていたのだが青森県生まれとあってかあまり方言がなじまなかった感じだ。これまで百面相の演技で「LIFE!」ファンを唸らせてきたじろうだが、関西弁の人物はやや苦手に映った。まあ彼の敬愛する志村けんも、関西弁をしゃべるキャラはやらなかったしね。

【考えるのをやめた人たちの会】

 うさんくさいセミナーwが舞台のコント。出席者の一人で田中演じる神楽坂さんが、かつてのレギュラー放送でのコント「勇気があれば」に出てきたキモいおっさんに似ている件w

 古田演じる紳士的な物腰の講師が、生徒役の江口のりこの空気を読まない発言にペースを乱され、川栄李奈に平手打ちをかまされと散々な目に。内村演じる独身男性生徒のロボット演技に触発され、神楽坂さんも勇気を出すが…。

 結論から言えばいまいちなコント。古田演じる講師か、田中演じる神楽坂さんか、どちらが主役なのか、どちらに視聴者側の焦点を合わせればよいのかブレてしまった。最後は散々な目に遭った講師が神楽坂さんにキレるのかと思いきや、中途半端なオチになってしまったのが残念である。江口と川栄の出番が少なかったので、次の放送分(10月9日)にも出てくるのかな。

【ムロ待ち】

 このコントでも臼田が復活。ムロの追っかけとして彼に地元の酒を渡そうとするが、ご存じ黄金原さん(じろう)に「CMに影響する」と言われてしまう。サプリ飲料じゃないなら大丈夫な気もするがw

 しかしこのコント、じろうが臼田に「既婚者は家で旦那としっぽりやってろ!」とストレートに吐き捨てたところで後のやりとりが頭に入ってこなかったwああ前回放送(8月14日放送分)をムロが告知し忘れた話だったな。

 今度は告知忘れを予防しようと黄金原さんがムロと電話番号を交換しようとする。意外とこの手はやっていなかったっけか。ただメイプル超合金のホームページ管理をしていたのは見知らぬカズレーザーファンだったという話があるくらいなので(「絶対!カズレーザー」から)、ファンがツイッター管理するケースもあるのかもしれない…いやねーな、と思ったり。

「しんぶん赤旗」日曜版に初登場!「ひと」出川哲朗(9月3日号)

 「満を持して」という言葉は、まさにこういう時のために使うのであろうか。芸人界最高のリアクション芸人のひとり、マセキ芸能者所属の出川哲朗がついに国政政党たる日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日曜版の看板コーナー「ひと」の単独インタビューに登場した。

f:id:masa10ishi96sham69:20170904003751j:plain

(「しんぶん赤旗」日曜版9月3日号36面「ひと」から)

 インタビューの本文も振るっていて、冒頭の文から「『ヤバイよ! ヤバイよ!』。『しんぶん赤旗』初登場です」と来た。出川の「しんぶん赤旗」出演自体が大ニュースだと扱っているのである。しかもこのインタビュー自体、いまやテレビ東京の看板番組と化した出川の冠番組出川哲朗の充電させてもらえませんか?」の香川・小豆島ロケに同行しての取材だったという。「しんぶん赤旗」サイドの気合は半端ないことがこの点からも伝わってこよう。

 今回の記事の何が素晴らしいって、何と言っても写真だろう。電動バイクにまたがる出川の破顔一笑をとらえたベストショット! これだけでも「しんぶん赤旗」を購入する値打ちがあると思わせる素晴らしい1枚だ。しかしTシャツの柄が「YABAIYO YABAIYO」なんだなw

f:id:masa10ishi96sham69:20170904004324j:plain

 さらに記事の良さに拍車をかけているのが、「ひと」の見出しだ。だいたいこの手のインタビュー記事ってのは取材対象の印象的な発言から見出しを取るのが定石なのだが、今回の場合は「時代が僕に追いついた!」である。

 記事では地の文で「今や飛ぶ鳥を落とす勢いの人気。本人はどう受け止めてるの?」と最大級の賛辞を送った上で出川の発言を掲載。出川はこう語ったとある。

「正直、不思議な感じです。芸風は20年以上変わっていませんから。時代が僕に追いついた、と言ってます(笑)」

 「芸風は20年以上変わっていない」とサラリと言える出川の自然体には改めて驚かされる。まあテレビだと絶対スタジオでイジられる流れだけどw

 「時代が追いついた」とはまさに出川の言う通りだろう。お堅い政党機関紙たる「しんぶん赤旗」が番組ロケに同行してまで単独インタビューを試みた、というのがまごうかたなきその証拠だと思う。

 まあ強いて記事に注文をつけるとするならば、「時代が出川に追いつく」というその潮目はどこにあったか?までを聞いて、出川の答えを知りたかったところではある。私は、横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)時代の盟友・ウッチャンナンチャン内村光良率いる「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)での「はじめてのおつかい」などの奮闘ぶりがその潮目でなかったかと推測している。

 何しろ異国の地で臆せず現地の外国人にデタラメ英語で目的地への道のりを尋ねる、そのおかしくも懸命な姿は中学授業の教材にも使われているという。この話を「アメトーーク!」(テレビ朝日系)でしたのが出川自身なので、どこまで本気で信じていいのかという部分もあるがw、高視聴率番組によって出川の真摯(しんし)な芸事への姿勢が多くの国民の知るところとなり、現在の人気爆発につながったのではないだろうか。

 まあ記事でその辺が突っ込んで語られなかった(もしくは語ったが記事にならなかった)のは、「充電させてもらえませんか?」のロケ取材というインタビューの性質上、他局の番組の名前は出しづらかったのかもしれない。インタビューの最後では、自身の目標として「充電させてもらえませんか?」の長期番組化、海外進出を口にしている。

 

 ともあれ衝撃的な「しんぶん赤旗」デビューを飾った出川であったが、いかんせん紙面の限りでは彼の30年を超す芸能生活を語り尽くしたとは到底言えないところだ。せっかくつながりができたのだから、時間を置いて改めて出川には「しんぶん赤旗」に再登場をしていただき、今度は数週の号にわたって自身の半生を語ってもらいたい。

 「しんぶん赤旗」は「ひと」の他に特定の人物を数週にわたってインタビューする「この人に聞きたい」という企画を随時行っている。出川が「ひと」に登場した9月3日号では、あのノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章先生が3回にわたり己の半生を語っていて、同号が最終回であった。

 てなわけで、出川哲朗さん。「しんぶん赤旗」20年以上の愛読者といたしまして、再登場を心待ちにしております。赤旗編集局さまも、ぜひご検討のほどをよろしくお願いします。