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斎藤清六「ギンギラギンにさりげなく」

 唐突だが、日本国内のテレビバラエティー界で活躍する芸人において「ポンコツ芸人」「歌へた芸人」というくくりのジャンルがある。「ポンコツ芸人」は出川哲朗狩野英孝、「歌へた芸人」はオードリー・若林正恭や博多大吉がそれぞれの代表格と言えよう。

 しかし今から約40年前、日本のバラエティー界では「ポンコツ芸人」「歌へた芸人」の、いわば統一王者…それも絶対的な王者…と太鼓判を押せる芸人が君臨していたことをこの記事で伝えたい。そのボクシングさながらの統一王者は誰か。

 斎藤清六。

 20世紀を代表する天才テレビ芸人、萩本欽一がほぼ唯一の弟子と認めた人物である。

 

 まあ論より証拠ってやつで、まずはこちらの動画を視聴していただくとしよう。清六は当時のトップアイドル・たのきんトリオ近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」をカバーしている。

 清六の歌声を初めて聴いた方は「演技乙」などと思うであろう。しかし清六の全盛期たる1980年代前半に小学生で、かつ「欽ちゃんのどこまでやるの?」(朝日系)にて、レギュラーだった彼の歌声をほぼ毎週聴いてきた私としては「これが清六ちゃんだよ!」と声を大にして言わずにはおれないのである。サビの入りを間違うなんて、まさに彼の真骨頂だと評するほかはない。

 

 また「ポンコツ芸人」というジャンルにおいても、清六は現在のそのカテゴリの頂点たる出川を軽々と凌駕(りょうが)していたと言ってよかろう。先述の「欽どこ」では、いわゆる劇中劇の位置づけとして清六の刑事ドラマが放送されていた。

 おもくそいじりがいのあるシャワーシーンを終えた後、清六演じる刑事は匿名の脅迫電話を受ける。そこで清六が放ったこの一言。

「君は、なんなんなんだ!?」

 いやあ俺、当時は小学1~2年程度だったけどさ。この清六のセリフはいまだに忘れがたいよ。忘れられない、と言ってもいいかもしんないw この「なんなんなんだ!?」は清六の代名詞となり、先述のカバーアルバムのタイトルにもなっている。

 先に触れた刑事ドラマは、清六の恋人役だった叶和貴子が真犯人に狙撃され、清六が狙撃犯と(モタモタしながら)もみ合いの末に殺すというハードな結末となる(※)。エピローグ的な演出として、清六は血まみれの和貴子をお姫様抱っこする。

 しかし察しのいい拙ブログの読者ならお気づきだろうが、清六にお姫様抱っこなんかできるわけがないw 結局はこときれた演技の和貴子を無我夢中で引きずることしか清六はできなかった。このくだりを説明するだけでも、清六は出川や狩野にとって雲の上の存在に位置することが分かるであろう。

 

 1980年代前半においての清六の活躍は、まさに師匠・萩本欽一の手を離れた八面六臂(はちめんろっぴ)と言ってよいものだった。「クイズドレミファドン!」(フジ系)にて、回答者にとって何ら参考にならない歌声を披露する「セイロクマン」を勤め上げた。また「オレたちひょうきん族」(フジ系)の「ひょうきんベストテン」ではフリオ・イグレシアス役で出演し、その歌声で周囲の共演者を吉本新喜劇さながらにズッコケさせるという大役も果たしている。

 

 実は私は、清六本人を目撃したことがある。約20年前、幸運にも私は萩本欽一の講演を直に聴く機会を得た。会場の後方にいた私がふと会場を見渡すと、私のさらに後方で師匠を見守る清六の姿があった。その印象は「清六、意外とでかいな」であった。

 翻って現在、清六の公式サイトを閲覧する。トップページのポートレート画像を見ると、なんだか欽ちゃんの大切な元相方である坂上二郎をほうふつとさせるものがあるなあ。70歳をすぎ、マイペースで活動を続ける清六だが、ぜひとも再評価をされてほしいと思う次第である。

 

(※)くだんの刑事ドラマは「欽どこ」のセットにあるテレビで流れているVTRを萩本と妻役の真屋順子が見届けるスタイルだった。萩本は清六の迷演にツッコミを入れまくっており、真犯人とのもみ合いのシーンでは真犯人を応援していた。