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志村けんと下ネタ

 志村けんが亡くなった。70歳。

 新型コロナウイルスに人生を奪われた彼の訃報には、有名無名問わず多くの人々が悲しんでいる。個人的には、お堅いイメージを持つ日本共産党の書記局長を務める小池晃が、記者会見での質問に「土曜の夜8時にはテレビにかじりついていた」というほどの「8時だョ!全員集合」(TBS系)ファンだったというのに驚かされた。小池は志村を「日本を代表するエンターテイナー」と評している。

 

 志村が闘病生活を送っているさなか、ネット上では「フェミニストが志村を叩いている」という話題が上がっていた。これは正確には、志村のコント番組で横行していたセクハラや、女性の裸が頻繁に出てくる演出をネット上で称賛していた男性連中に女性の側から批判が起こったというのが大まかな経過である。

 twitterで「テレビでおっぱいを見せてくれた志村を死なせない」と言っていた男性アカウントがいたな。そいつのツイートには何万ものRTやいいねがついた。「おっぱいを見せてくれた女性タレント」に感謝せず、志村に感謝するという男性側の言動に、怒りを通り越して呆れの感情を見せる女性アカウントが多く見られた。

 

 私自身、テレビで披露される志村の下ネタやセクハラに閉口した人間である。具体的に言えば「全員集合」の後継として約6年間放送した「カトちゃんケンちゃんごきげんテレビ」(TBS系)のことだ。

 まあ「ごきげんテレビ」放送以前の「ドリフ大爆笑」(フジ系)でも下ネタはあったよ。その一つが病院コントで、志村演じる内科医に無名の女性タレントが脱衣してバストをもろ見せする。それを次の患者役の加藤茶が何とか見ようとする内容でね。

 

 当時小学生の俺は「そういうのどうなんだろ」と思っていたが、「ごきげんテレビ」ではさらにエロ演出がエスカレートしていたんだよな。顕著だったのが、番組前半のコントドラマ「探偵物語」にストリッパーの清水ひとみがゲスト出演した回だろう。

 加藤・志村の運営する探偵事務所に清水が訪問。自身の勤めるストリップ劇場にやくざの親分が詰めかけ「愛人になれ」と強要してくる…との清水の相談を受け、2人は彼女の付き人を装ってボディーガードを務めるという展開だ。

 劇中では清水の本番さながらのストリップショーが放送される。繰り返すが、土曜夜8時の放送である。清水のストリップショーは数分間ほどの長い尺で、しまいには興奮したていで舞台に出てきた加藤と志村が両そでで踊りだす。志村が恍惚(こうこつ)とした表情で、股間に手を当ててピストン運動していたのは今でも覚えているわ。

 後年知ったが、この清水ゲストの回はかなりの批判が殺到したらしい。そらそうだろうな。あと加藤と志村が透明人間になる回があって、銭湯の女湯に忍び込む(当然、テレビで多数の女性の裸体が映される)オチもあった。

 

 「ごきげんテレビ」は上記のように約6年続いたが、私は3年ほどで見るのをやめたな。中学受験を控えた時期と言うのもあったが、生々しい下ネタの多さで次第に疎遠になったのも一因だった。

 ソロ芸人としての志村の出世作である「志村けんのだいじょうぶだぁ」(フジ系)はよく見ていたが、この番組で志村のセクハラ芸は確立した感があるな。石野陽子(現・いしのようこ)にカンチョーするとかね。

 

 こう書き出してみると、志村の芸人としての足跡には下ネタやセクハラが大きな比重を占めていたのが分かってくるな。何で自分の番組であんなに下ネタやセクハラをやったんですかと、今では聞けないことを聞きたくなる。

 「志村けんのバカ殿様」(フジ系)で家老役として出演した故・東八郎は、下ネタを非常に嫌う芸人として有名だった。若き日の萩本欽一に、東は「下ネタはうける。芸人が下ネタに走るのは、その芸人が疲れているからだ」と戒めた話がある。実際、萩本は東の教えを守って現在も「下ネタに厳しい芸人」のイメージを確立した。

 志村も萩本同様に、若いうちから下ネタを厳しく戒める芸風を確立していたら…などと思ってしまう。余談だが高校時代にコメディアンを志した若き志村は、コント55号の萩本かザ・ドリフターズいかりや長介か、どちらの弟子になるか迷ったという。

 

 志村けんさんのご冥福を祈ります。