漫画家は芸人より面白い説~森田まさのり先生M-1準々決勝進出に思う
今年で通算14回目を迎える漫才師の祭典M-1グランプリ。このほど3回戦が行われ、異色のアマチュアコンビが堂々準々決勝に勝ち名乗りを挙げた。
(山陽新聞のネットニュースから)
コンビ名は「漫画家」。名は体を表すの言葉通り、2人とも本業が漫画家なわけだが、その1人が「ろくでなしBLUES」「ROOKIES」を世に送り出した森田まさのり氏なのだから、そのニュースはお笑いファンをザワつかせている。ちなみに相方の長田裕幸氏は本業の傍ら、大喜利プレーヤーとしても活動しているらしい。
今年のM-13回戦では、今はなき「THE MANZAI」で大活躍したアルコ&ピースや、M-1準決勝経験のある尼神インターが容赦なく落選している。その中でのアマチュアで畑違いの「漫画家」が準々決勝に駒を進めたことは特筆に値すると言えるが、私はこう考えるのである。
「実力のある漫画家(森田先生のコンビでなく漫画家全般を指す)なら、お笑いの大会を勝ち抜くのそんなに難しくなくね?」と。さらに言ってしまえば「ぶっちゃけ漫画家の方が芸人より面白いと思うし」と。
何を言っておるんだおまえはと言われそうだが、まず漫画家と芸人という職業は、よく似ていると思う。ギャグ漫画を描いている漫画家は特に。人(観客や読者)を笑わせるために使う表現方法が「しゃべり」か「絵」かの違い以外は、基本的に同じ作業と言ってよいのではないか。
しかし仕事の過酷さで言えば、私は漫画家の方がきついと思う。月刊連載のギャグ漫画なら年に12本、隔週刊なら24本、週刊なら約50本もの作品をおろさなければならない。芸人が漫才やコントのネタ(劇場にかけられるレベル)を毎週1本必ず完成させなければいけないようなものだ。
しかも漫画家には、あの手塚治虫をさんざん苦しめた「締め切り」があり、毎回新作を全国の何万何十万という読者に届けねばならない。芸人の場合、劇場に来るお客さんは1回ごとに入れ替えるので新作にこだわる必要も大してなければ、ネタの締め切りにおののく必要もない。漫画家の仕事の方が、プレッシャーはずっと重いものがあろう。
そしてギャグ漫画家は、読者を笑わせるために芸人よりずっと高度な技術が要求されると思う。芸人のボケ(動きのボケも含む)やツッコミは視覚と聴覚に訴えることができるが、漫画の場合、読者を笑わせるためには視覚に訴えるしかない。ハードルが上がるのである。逆に言えば、漫画で笑えるギャグは相当なレベルと言える。サンドウィッチマンの伊達みきおが、ネタ担当である相方富澤たけしの台本について「読むだけでも面白い」と著書で書いたことがあるが、それと同様と言えよう。
しかもギャグ漫画家でも一流と呼ばれるクラスとなると、異なるジャンルであるはずのお笑いに当然のように精通していたりする。国民的漫画「ドラえもん」の作者藤子・F・不二雄は落語好きで知られ、落語の演目をベースにした作品(「ドラえもん」ならてんとう虫コミックス5巻「ギシンアンキ」の回など)も多い。
8月に死去した「ちびまる子ちゃん」「コジコジ」「永沢君」などのギャグ作品の作者さくらももこは、ラジオ「ビートたけしのオールナイトニッポン」の熱狂的なリスナーであった。また落語家になろうと、春風亭小朝の弟子入りを考えたことで知られている。
極めつけは赤塚不二夫だろう。何と言ってもタモリを世に送り出した人である。また赤塚自身も「面白グループ」の一員として漫画以外で表現できるギャグを追求した。若手時代のビートたけしも「面白グループ」に参加したが、スタンスが合わずに離脱したというが。
つらつら書いてしまったが、要は一流と言われる漫画家は、教養や場数の部分でたいていの若手芸人を凌駕(りょうが)しているんじゃねえのと私は言いたい。ここでようやく森田まさのり先生の話題に戻るが、彼は「ROOKIES」を完結させた後の時期に吉本興業のお笑い専門学校NSCに入学して学び、その経験を芸人志望の高校生を主人公にした漫画「べしゃり暮らし」の執筆に生かしている。
ちなみに私はリアルタイムで「べしゃり暮らし」の1巻を読んだ。2巻以降は結局買わなかったので、まあハマらなかったわけだが、当時は「森田先生も思い切ったことやるなあ」と思った。先に書いたように、漫画で人を笑わせるのは相当な労力がいるのにわざわざお笑いがテーマの作品を描いたからである。
ただ「べしゃり暮らし」1巻で言うと、校内放送のシーンがすごく印象に残っているけどね。主人公と、転校生の相方が昼休みの校内放送でラジオ番組さながらのトークを展開して、カツラ疑惑の校長(実際にカツラ)を「あれはツッコミ待ちか」と処理するくだりは素直に笑ったし。森田先生、この作品にかけてるもんがあるなと思った。
それでも風のうわさに、今年のM-1に出ると知ったときは驚いた。森田先生、今年で52歳だぜ。2回戦までには必ず消えると思っていた。てかすっかり出ていることすら忘れていた。
そこへ堂々たる「漫画家」の準々決勝進出である。私としては、森田先生に己の不明をわびるほかない。ここまで来たら準決勝、果ては森田先生が敬う松本人志が審査員を務める決勝まで勝ち進んでいただいて「漫画家は芸人より面白い」説を実証してほしいと思う。
個人的には、敗者復活戦に出場できる準決勝まで進んでもらって、司会の今田耕司と絡める機会ができてほしい。森田先生と今田は、ともに実家がお寺という独特の共通点がある。また今田は漫画愛好家の一面があるので、内心森田先生と絡める可能性があることにワクワクしているかもしれない。
つーことで、ぜひとも森田まさのりと長田裕幸のアマチュアコンビ「漫画家」は準決勝まで何が何でも勝ち進んでもらいたいと、他人事ながら切に願っている。