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「アウト×デラックス」(フジ系2月1日放送分)けうけげん氏がお笑い界の諸葛亮孔明となる日

 おそらく全国各地にあまたいるお笑い好き、大喜利好きな人々はテレビの前で正座して刮目(かつもく)したであろう、2月1日の矢部浩之マツコ・デラックスがホストを務めるトーク番組「アウト×デラックス」。ゲストの1人が「けうけげん」氏であった。

 昨年まで長らく放送された「着信御礼!ケータイ大喜利」(NHKテレビ)の常連投稿者であり、番組内にわずか7人しかいない「レジェンドオブレジェンド」の1人だ。また、松本人志がチェアマンを務める「IPPONグランプリ」(フジ系)でも複数回にわたり視聴者投稿として採用されており、私のようなお笑い好きを自称する人間なら一度は名前を耳にしたことのあるくらいの御仁である。

 そう書いておきつつ、そんなけうけげん氏が「アウト×デラックス」に出演すると聞いたときは、正直言ってあまりマークしていなかった。失礼を承知で書くと、「言うほど異色じゃないんじゃない?」と思っていたからである。

 漏れ伝わってきた番組の事前紹介では、けうけげん氏はお笑いを愛するあまり「架空の爆笑オンエアバトルを開催している」という情報を聞いた。番組を視聴する前、この情報を仕入れたときの私は「ああ、そういうのは俺もやっている」だった。

 私も小学から中学にかけて、その手の遊びを親しんだ。私の場合は野球で、架空のプロ野球選手を創作して、その選手の年度ごとの通算成績を書くのが好きだった。こうした癖は今も残っていて、別のブログで実在するグラビアアイドルが己のDVDを使ってたたかう甲子園大会を開催したりもしている。

 なので、けうけげん氏が番組中にある厚紙ーノートの表紙の裏側らしいーを机に置いて「少年時代親しんだ『爆笑オンエアバトル』(NHKテレビ)の各週の成績を書き出していた」という趣旨の話を聞いたときは「まあ、あるあるだよね」と思った。偉そうな物言いだとは思うが、好きなもののデータベース化ってのは、いわゆるオタク的な趣味を持つ者にとってはそんなに珍しい取り組みじゃないという認識が私の中にあったのである。

 しかしその直後、私は自身が「井の中の蛙(かわず)」であったことを痛感することになる。けうけげん氏の後見人として共演していた櫛野氏の補足により、そのノートの裏に書き出していた「オンエアバトル」のデータは、放送年度ごとに上書きしていたと知った。せっかく書いたデータを消しゴムで消すということである。

 それを聞いて、私は全くその行動を理解できなかった。私の頭脳による想像の範疇(はんちゅう)を超えていた。そんなこと、俺はやったことがない。

 けうけげん氏は、淡々とした口調で「中学の頃の僕には、これで行こうという思いがあった」と説明した。マツコは、その言葉使いに「キレイ…」と惜しみない賞賛を送ったが、私は勝手にえもいわれぬ敗北感に見舞われていた。才能のある人間と、ない人間との差がここにあった、とすら思えた。

 

 そして番組は、彼の真骨頂である「架空芸人」に言及。1000組以上という架空のお笑いコンビ(本人のtwitterによればトリオやピン、5人組と構成は多彩)を創作し、組ごとの芸歴や所属事務所(これは実在)、コントや漫才の分類、芸風を事細かく説明するけうけげん氏には、普段辛口なネット掲示板界隈も「放送作家か漫画家になれる」「売れない芸人は彼のアイデアを買うべき」など惜しみない絶賛の声を送った。

 まあ、彼の架空芸人のアイデアにそれこそせんえつながら私が何か言うとしたら「芸人の見た目やコンビ名がオーソドックスすぎるかな」である。少なくとも番組で紹介された限りでは奇抜なビジュアルやコンビ名を冠した芸人はいなかったので、そういう芸人の創作もやってほしいなと。もっとも架空芸人は1000組を超えるので、そうした奇抜な芸人も創作しているかもしれないが。結局、個人的には架空芸人の詳細を何らかの形でつまびらかにしてほしいということに尽きるw

 しかし人力舎所属(と設定)のサーキュレーションという架空コンビ、じっくりネタの内容を聞いてみるとアンジャッシュをほうふつとさせるな。アンジャッシュはまさに人力舎所属、そのへんのテイストも考慮して架空ながら所属事務所を決めているのだろうな。彼の「脳内キングオブコント」で優勝したコンビ「カテナチオ」は、繰り返しの面白さを身上としたコントが持ち味らしく、どことなくカテナチオと所属が同じのジグザグジギーを思い起こすのであるが、どうだろうか。

 

 先述のネット掲示板界隈では「彼はフジテレビの救世主となるかも」てな書き込みもあった。この手の書き込みでふと私の脳裏に思い浮かんだのは、「三国志」の諸葛亮孔明である。今さら説明の必要もない奇才の軍師として名高いが、私はけうけげん氏のイメージをこの諸葛亮孔明に重ねている。

 けうけげん氏は学生時代から大喜利プレーヤーとしての実力を認められていながら、今日に至るまで宮城県白石市に在住。芸人という職業に憧れを抱きつつも、慣れ親しんだ故郷で生計を立てているようだ。そのスタイルは、その傑出した才能を徐庶ら少ない友人に評価されながらも(孔明は青年時代変わり者として評判で、評価する人は少なかった)、官僚に取り立てられるなどの野心にとらわれることなく晴耕雨読に勤しんだ若き日の諸葛亮孔明とダブると書いたら、過言であろうか。

 そんなけうけげん氏が、齢25にして全国ネットのテレビ番組に出演し、その才能をあますところなく披露してみせた。おそらく多くのお笑い業界関係者が、彼へのコンタクトをこぞって試みているだろう。

 その中にあっても、ぜひけうけげん氏には、劉備玄徳に「天下三部の計」を教えて彼の理想を補佐した孔明のような生き方を追及してほしいと、全くの野次馬根性ながら希望している。今のお笑い界を三国志に例えるなら魏は吉本興業、呉は渡辺プロや太田プロ。それ以外の弱小事務所が蜀にたとえられるのではないか。ぜひともけうけげん氏には「全国デビュー」を経ても自身を見失うことなく(私がそう考えるのも老婆心以外の何物でもないが)、お笑い界を三分するような奇才を発揮してほしいと願う次第である。