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M-1グランプリ2016決勝戦感想その2

★ファーストラウンド

相席スタート

 初出場。恋愛と野球の投球術というのは、駆け引きがものを言うという点で共通すると個人的には思う。そこへ相席スタートの2人(山崎ケイ、山添寛)が着目したのかは定かでないが、野球好きとしては冒頭のやりとりから非常に引き込まれるものがあった。

 野球の投手も、ボケの山崎同様(?)「振ってもうた!」と打者に悔しがらせるために日々精進している。投手が打者の空振りを奪うテクニックとして「ボールになる変化球を振らせる」のは、今や現代野球において定番であるからだ。

 そんなこんなで、合コンを野球の1打席勝負にたとえてのネタは非常に楽しませてもらった。通常の野球中継では、打者が1球ごとにバッターボックスを外してインタビューに応えるなどありえないのだが、展開を飽きさせない工夫としてすんなり受け入れられた。

 フルカウントから投じられた球は、ボケの山崎がこれまで各所で披露してきた「ちょうどいいブスのテクニック」のおさらいではあるのだが、それまでの伏線の張り方が非常に丁寧だったので、山添の「振ってもうた!!」は素直に笑わせてもらった。客席も拍手笑いで沸き返り、ウケそのものは彼女たちの狙い通りに行ったかもしれない。

 しかし合計得点は436点どまり。私の採点は92点。漫才の生命線である掛け合いの部分が薄かったと言われれば否定しようがないので、結果的に最下位に終わるのもやむなしかなとは思っているが。

銀シャリ

 3大会連続3回目。旧M-1から数えて3大会連続ファイナリストとなる今大会の大本命。「ドレミの歌」を題材に取ったと分かったときは「相変わらずだな…」と思ったものだが(初決勝の第10回大会では「アルファベット」をネタにしていた)、鰻のボケの強度が上がっていることに新鮮な驚きを覚えた。

 「レ」の段で必ずうろたえるくだりなど、これまで橋本のツッコミが少なからず笑いの起点となっていた印象だが、今大会においては鰻のボケでも笑いが起き、さらに橋本のツッコミで笑いを増幅させるという黄金のループができていたと思う。一見単調なネタなんだが、退屈せずに最後まで見られた。

 合計得点470点は、ファーストラウンド全体でトップに。個人的な採点は93点。

 

 続きます。

M-1グランプリ2016決勝戦の感想その1

★ファーストラウンド

【アキナ】(初出場)

 結成からのキャリア自体は短いものながら「THE MANZAI」「キングオブコント」そして「M-1」と全国レベルの賞レースのファイナリストを総なめした彼ら。大舞台でのトップバッターとして披露した演目は、かつて組んでいたトリオ「ソーセージ」から得意とした離婚ネタだった。

 ソーセージの離婚コントは懐かしの「オンバト」で見ていたので既視感こそあったが、漫才という枠組みの中では山名演じる5歳の息子が両親の離婚という危機に発するリリックの破壊力が半端なかった。「公文に行くほど大人やない」のアレね。

 3人から2人となり、父親(秋山)と息子(山名)と登場人物の関係性を絞ったことによって、ネタのパンチ力が増して最後まで飽きさせなかったと思う。出番が後半なら確実に最終決戦に絡めた出来だった。

 審査員の合計得点は446点。私の個人的な採点は91点。

【カミナリ】(初出場)

 番組でも「ダークホース」とのキャッチフレーズをつけられた、今大会の秘密兵器枠。私は11月末に放送した黒柳徹子とさまぁ~ずの特番で彼らを初めて見たのだが、このときは、序盤でたくみのツッコミが非常に小気味よく、まなぶの頭へ「パシーン!!」とクリーンヒットしたのを今も覚えている。

 小気味よい叩きツッコミが彼らの生命線なのは言わずもがなであろうが、M-1決勝という大舞台、たくみのツッコミは「ピチッ」と音がする、若干失敗の印象があった。テレビの前で見ていた私は「あ、彼らは緊張しているな」と察知して、自分まで緊張しながら最後まで彼らのネタを見入ったというねw

 川柳を題材に取ったネタそのものは、五・七・五なのに七・九・七に2文字ずつ字余りするという微妙にのどかなテイストで、その辺に事務所の先輩のサンドウィッチマンの影響を感じたりする。ネタ終わりにたくみがトレンディエンジェル斉藤みたく背広の裏側を見せようとしてグダるくだりがあったが、そこ込みで伸びしろを感じさせる若手であった。

 合計得点は441点。個人的な採点は89点。

 

 続きます。

「LIFE!」#22(NHKテレビ11月24日放送分)

【カメラ映り】

 衝撃デビュー(?)を果たしたカメラ映り限定の美女・マユカ(塚地武雅石橋杏奈)とトクラ(星野源)の恋の行方の続編。しかし物語の設定はさらにねじれを見せる。塚地の姿のマユカの容ぼうをトクラの同僚・斉藤(ムロツヨシ)や上司(田中直樹)は絶賛するのだ。カメラ映りの設定ぶん投げていない?と見ているこちらは戸惑うのだが、リアルタイムでは謎が謎を呼ぶ展開にとにかく引きつけられた。

 ランチのさなかに斉藤に口説かれ、折れてメアドを教えようとするマユカ。するとトクラはスマホを介していないにもかかわらず、マユカが石橋の容姿に見えてしまい、妨害してしまう。

 とっさの行動に自分で驚いたトクラは食堂を後にするが、これはトクラが塚地の容姿を分かった上でマユカに好意を持ち始めたということか。なかなか深い恋愛コントの様相を呈してきた。「逃げ恥」とあわせて視聴すると面白さが倍増するかもしれない←適当。

【家族の絆】

 田中直樹の「コンテンポリャリーダンス」の噛みっぷりとともに、半ば伝説化していたコントが2年ぶりに復活した。てか合間のトークで2012年からこのコントをやっているのを知ったw老舗やんけ。

 コントの前後からスタジオでさんざんいじられたが、このコントでは何といっても臼田あさ美西田尚美ダンスに尽きる。西田ダンスのラストのブリッジが気持ちそっと動いていたのは、筋肉痛の影響があったからか。

【パワーもらっちゃった】

 ほぼ「パワーもらった」のワンフレーズで大して面識のない人同士の会話を乗り切るという、あるあるなのか違うのか微妙なラインを突いた「LIFE!」らしいコント。吉田羊に対して内村が「こんなキレイな人に…」と照れるくだりがあったが、これ彼女メインの「大人の女」コントでも塚地演じるカミナリ親父がやっていたな。個人的に吉田は美人だと思うがクセの強いルックスで、その手のセリフを乱発するのは違和感を覚えるのだが。

【LIFE ANSWER】

 星野を迎え「今のあなたに足りないものは?」の質問。結果は「ない」の2文字で、天の声のシソンヌ長谷川に説得されて再回答するも「ほんとない」。

 まあ「逃げ恥」でガッキーと2回もキスシーンして、今や「ポスト福山雅治」に目されているポジションまで来た星野としては正直な心境だろう。ただこの回の放送後に、星野は体調不良を訴えて予定していた音楽番組の出演を取りやめている。くも膜下出血で倒れ復帰した彼だけに、無理だけはしないでもらいたい。

「LIFE!」#21(NHKテレビ11月17日放送分)

 【囲み取材】

 番組総合演出の西川氏は、『Quick Japan』誌上でゲスニックマガジン西条記者(田中直樹)の質問は「地方の中学生が芸能界に対して思っていること」を具現化したものと話している。その主張に異を唱えるつもりはないが、今回のゲスニック西条は中学生にしてはカンが良すぎたと思うwグラドルの結婚相手の職業を当てるなんてのは中学生ではなかなか思いつかない所業だ。

 あと目を引いたのは取材陣の後列にいたカメラマン役のエキストラ。斉藤洋介さんをほうふつとさせる面長の中年男性で、ゲス西条の質問に演技か素か判断付きかねる感じの笑みを漏らしていて、かつ西条が警備員に連行される際にパシャパシャ撮影するなど細かい演技が印象に残った。空港コント「テイクオフ」のときも思ったが、こうしたエキストラの気合の入った演技が時折見られるのがNHK制作の「LIFE!」の強みだと思う。

【梅雨入り坊や】

 市川猿之助がゲスト出演。このシリーズの初回を見た際は設定が斬新すぎたこともあって個人的には低評価を下していたのだが、雨雲(塚地武雅)の登場など新機軸の投入でコントの世界観を広げ、内村光良演じる梅雨入り師匠のバカバカしい踊りも次第にキャッチーに受け入れられるものになったと思う。跡取りの梅雨男(星野源)が反抗的な態度を取った際に「ばかもの」とソフトタッチでしばき倒す流れも、一種の様式美として秀逸な演出に受け取れた。

 ただし今回のコント、白眉は何といってもゲストの猿之助だろう。貫一お宮をほうふつとさせる梅雨男踏みつけポーズや、内村の「梅雨入りの舞」を受けて即座に繰り出す「梅雨明けの舞」は、本業の歌舞伎の舞台のつもりでやっているんちゃうかと思うほど本意気の踊りを見せてくれたと思う。

 「テイクオフ」の柄本佑のときも思ったが、コントはふざける演技を一生懸命やればやるほどおかしみが増してくる。そうしたセオリーをきっちり猿之助も踏襲してくれて、「梅雨入り坊や」は名作シリーズと化すことができたと思う。あっぱれだ。

【オモえもん】

 総合演出の西川氏は『QJ』誌上でオモえもんの解説をした際に「『ドラえもん』?何ですかそれ?」ととぼけた。ただし実際はきちんと藤子不二雄サイドに許可を取ったんだろうなと確信できた秀作。地球破壊をにおわせたセリフは原作の「地球はかいばくだん」を確実にモチーフにしている。ドラえもんが「フヒーッ ヒ ヒ ヒ」と涎を垂らして発狂した回ね。

 そうした本家へのリスペクトがふんだんに感じられたのが今回の作品だった。しかしオチでのBGMがおもくそ本家(大山のぶ代時代)のトレースで、許可いっそう大変だろうなと思わされたw

【出たぞ!】

 地域の言い伝えで恐れられている「あめふと」。この実体はそのままアメフトユニフォーム姿のシソンヌ長谷川だったわけだが、長谷川自身185cmという長身のため「怖い生き物」と認識させるための説得力は十分にあったと思う。

 神パン(田中)による強制退場に至るまで、所要時間は短くテーマも演出もシンプルなコントのため、ネット上では「ぜひ続編を」という声も多く見られた。しかし個人的には「う~ん」である。2回目で改悪しすぎな「朋香ちゃんぶった切る」を見ているので、学習してしまうんだよな。

ボキャブラ世代逆襲の切り札はピコ太郎でも古坂大魔王でもねえ、プリンプリンだ!

 いささか話題に乗り遅れた感は重々承知しているが、いま「ピコ太郎」なるコミカルなミュージシャンが世界をにぎわせている。メディアでは別人と強調しているが、その正体はまごうかたなき古坂大魔王。かつて大人気を博した「ボキャブラ天国」に出演していた「底ぬけAIR-LINE」というトリオ、1人脱退してコンビのメンバーだった人物・古坂昭仁その人である。

 ピコ太郎は11月4日放送の「ミュージックステーション」に生出演し「ボキャブラ天国」の司会だったタモリと再会を果たす。本編では乃木坂46など並み居る出演者を抑えて堂々のトリとして「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」のロング・ヴァージョンを披露。ジャスティン・ビーバーをも唸らせた楽曲を日本中に響かせた。

 私はリアルタイムで視聴できなかったのだが、その時間帯にツイッターをいじっていると、少しひっかかる物言いのツイートが目に飛び込んできた。演芸評論家・菅家しのぶ氏の一言である。

  ももいろクローバーの楽曲の詩を引用する形で、私を含む「ボキャブラ世代」…指している対象は不明だが、当時の番組に出演していた芸人、視聴していた人々を指すものと解釈してよかろう…を軽くdisっているのはよく伝わってくる。これについては複数の角度から異論を唱えたくなった次第だ。

 

 まず「ボキャブラ世代」というものは、そんなに(私の印象だが)軽口を叩いてdisっていい対象なのか、という疑問が頭をもたげる。「ボキャブラ天国」は、いわゆるネタ番組と趣旨が違い、ざっくり言えばダジャレの面白さを競う番組であった。ボキャブラブームの数年後に起きたネタ番組ブームに熱狂した世代から見ると、ネタそのものを評価の物差しとしないボキャブラ芸人の当時のブレークぶりに納得行かない人がいたとしても、それは不思議ではないだろう。

 しかし改めて、ボキャブラ天国でブレークした芸人の顔触れを見てほしい。爆笑問題ネプチューンくりぃむしちゅー(当時海砂利水魚)、土田晃之(元UーTurn)、東貴博(Take2)と、今やテレビバラエティーに欠かせない人物を多く輩出しているではないか。

 彼ら以外にも、オバマ米大統領のそっくりさんネタで再ブレークを果たしたノッチ(デンジャラス)や、今年のR-1ぐらんぷりでぶっちぎりの優勝を果たしたハリウッドザコシショウ(元G★MENS)もいる。彼らなど、今日に至るまでお笑い界に人材を絶えなく供給するほど多士済々なのが「ボキャブラ世代」の地力であり、このたびピコ太郎(古坂大魔王)もその末席に加わったといえないだろうか。さすがにギネス認定されるまでのブレークは予想できなかったけども。

 

 そして改めて私が強調しておきたいのは、ボキャブラ世代の「逆襲」が、今回のピコ太郎のブレークで打ち止めとは決してならないだろうということである。先ほどまで書いた内容とも重なるが、ボキャブラ世代の逆襲というものは、今回のピコ太郎のように余興のような音楽ネタで評価を得るのでなく、まさに演芸ネタそのもので圧倒的な評価…いわゆる賞レース優勝など…を得て完結するものだと思っている。

 その重大な役割を担うのはどの芸人になるのか。私が推すのはプリンプリン、田中章とうな加藤のコントコンビである。

 彼らを推すのには理由がある。「ボキャブラ天国」出演当時の彼らは歴史上の偉人を題材にした時代劇を取り入れたネタで番組に新風を吹き込み、中心選手となっていった。ちなみにボケ役の田中は当時交際していた女性にプロポーズした際、「座布団取ったら(番組で1位になったら)結婚してあげる」と言われ、見事に公約を実現した逸話がある。

 そんな彼らが「ボキャブラ天国」終了から17年たった現在、深夜番組「ぷっすま」(朝日系)に出演し、ネタを披露する絶好の機会を得た。満を持して繰り出したネタは、NHK新人演芸大賞を獲得した出世作である幼児番組ネタ。うな加藤演じるお兄さんの呼びかけを田中がことごとく甲高い声で破壊するシンプルなコントは、2chの実況板で高い評価を呼んだ。番組後半でリクエストされた新ネタでも、ショートコントであったが湖に斧を落としたきこり(加藤)に対し「ロマン輝くエステールの…」と田中演じる湖の精が首輪をあげようとするくだりなどは、しっかりと実況板で評価されていた。

 そういう意味では、プリンプリンはまだ日本一のコントレース「キングオブコント」で評価される可能性を残していると言えよう。ショートコントでなく、きっちり4分の新作コントを完成させれば来年のキングオブコントの台風の目になるのではないか。

 ボキャブラ時代を知らず、ネタブーム世代でネタを見る目の肥えたお笑い通に「ボキャブラ世代ここにあり」とアピールできるのは、ピコ太郎(古坂大魔王)でなくプリンプリンだと私は確信している。来年のことを話すと鬼が笑うというが、一向に構わない。2017年お笑い界台風の目は、ボキャブラ世代のプリンプリンだ!そう今年から断言させていただく。

「LIFE!」#19(NHKテレビ10月27日放送分)

【盗聴】

 前回の「言い方の問題」(星野源がイケメン扱いされる)をA面とすれば(する必要はあるのかはともかく)、この盗聴コントはB面のようなおかしみ。オチは「スパイ」というあだ名ネタに落とし込んだが、ここのところガッキーとW主演やっている星野に「ちょっと頭冷やそうぜ」とたしなめるスタッフおよび視聴者の姿勢が感じられたw

 ただし、清野菜名のゲスト起用にはあまり必然性を感じなかった。彼女のプロダクションはオセロ松嶋鶴瓶の息子駿河太郎らが所属。彼らの近日ゲスト出演込みのキャスティングと邪推してしまうが…。

 

【プラス車掌】

 西田尚美のセリフ覚えに驚愕w彼女は先日発売のQJ』(太田出版)での「LIFE!」特集内のインタビューにて「この番組をやってきたことで、何をやるにもあんまり怖さはなくなった気がする。ただここでコントをやるのは怖いかな」(25ページ)と話している。番組に対する長年培った信頼感がよく分かるコメントだが、それがセリフ覚えに悪影響をきたしていないのか心配だw

 

【打ち上げ】

 ひさびさのワンカットコントだが、今回は意外と尺の短い作品。有象無象な「業界人」たちが、謎の言葉を交わし合いながらパーティー会場をうろつき回る。レギュラー全員参加、エキストラも大挙出演しているセット内で動線を間違えず移動するのは尺の長さとは別の苦労があったとは想像に難くない。

 会長(内村)のモゴモゴしたあいさつが終わった途端に会場をはけていく多くの業界人…というオチの絵面も含めて、最近の「LIFE!」には珍しいシュール一辺倒のコントだ。ちなみに『QJ』の企画「番組スタッフが選ぶマイ・ベスト」にて、衣装担当の牧原加奈氏(東京衣装)が、発売当時は未放送だったにもかかわらず「打ち上げ」を自身のベスト作品に掲げている。

 

【何度でも】

 タイトル、ドリカムかよw『QJ』のインタビューで内村が西田について「日本一夫婦役をやってますから」(21ページ)と豪語しているが、その阿吽の呼吸が今さらながら伝わってくる堅実な内容のコントだ。一見年齢不詳なほど初々しい西田の妻役もいい。

 また内村は『QJ』にて上記のコメントの直後、西田に「台詞覚えてきなさいよって(笑)」(同ページ)と付け加えている。

キングオブコント2016決勝戦感想その9今大会の観客について

  さてライス優勝で幕を閉じた今大会から3週間以上たってしまったわけだが、この問題にも触れておきたい。今大会、多くのお笑いファンの怒りを買うことになった「観客の反応」の問題である。

 要は、ネタを見ていてやたら騒がしい観客がことのほか多かった、ということらしく、ネット上で批判の声が相次いだ。著名な演芸評論ブログ「土曜深夜の視聴覚室」の菅家しのぶ氏は特に手厳しく「お前らは映画館でも誰かが怪我したら『ウワァー』って声をあげるのか」「しずるのコントで血を見て引いていたのは本当に意味が分からん」「こっちの視聴を阻害するような反応はやめてくれ」と辛辣な批判を大会の観客に向けて行っていた。私が読んでいた2chのお笑い芸人板の「キングオブコント」スレでも、同様の書き込みが非常に多く見られた。

 別にこちらとしては、そうした批判に真っ向から反論しようというわけではない。ただ批判の声を上げた彼らの多くと同じく、テレビでリアルタイムで決勝戦を視聴していた私の率直な感想としては、そんなに観客の悲鳴は気にならなかった。全く耳に入らないわけではなかったが、しずるの突入コント中に起きた悲鳴への菅家氏の指摘も「そういうのあったね」と思い出すくらいだった。

 むしろ私は「今大会の観客はドカンドカンとよく笑うな」という感想を持った。前回は審査システム改変(芸人100人審査から著名な5人の芸人による審査)により初めて多数の一般客をスタジオに入れ、その観客も妙に笑いが少なく重たい印象が残った。

 「よく笑うなあ」という意味で驚かされたのは、ファイナルステージのライスのネタのときである。前の記事でも書いたが、関町のズボンがビチャビチャの理由を彼の口から明かされたとき、ドオン!と会場から笑い声が起きた。過去の芸人審査時代のキングオブコントをひも解いても、あれだけ笑いの起きたシーンは数えるほどしかないのではないか。あれで最終的に、ライスの優勝が決定づけられたと言ってもよい。そういう意味では、むしろお笑いのアンテナをきっちりと立てていた観客が多かったと好意的な印象を抱いていたくらいである。

 観客の悲鳴の是非については、私は「アリ」だと思っている。最悪、口汚いヤジを飛ばすような客がいなければそれでいいんじゃね、くらいな感じで。それに悲鳴を上げるような観客は、笑いのポイントでもきっちり笑うことが多いんじゃないかね。テレビカメラは観客をずっと映さないから、こちらも確信があるわけじゃないけど。

 「賞レースの決勝という年に1回の大舞台なのだから、観客も緊張感を持って見るべきだ」という意見も多く見られた。菅家氏も「スタジオを自宅の茶の間か何かと勘違いしていたのか」と書いていた。それに関しては「緊張感持ってネタ見ていたら笑えねえだろ」と指摘するしかない。

 またお笑いの大会にとどまらず、この手の大舞台では「観客は生もの」であり、ああしろこうしろと指図する方が無粋だと思わなくもない。この夏の高校野球の選手権大会、八戸学院光星(青森)×東邦(愛知)。この試合では最終回で東邦が猛反撃を見せる中、異様に盛り上がる観客の姿が物議を醸した。

 100年近い歴史を持つ高校野球の全国大会でもこうなのだ。だから月並みな結論にはなるが、観客の反応がどうであっても、そうした観客を味方につけるようなネタをやり切ることこそが芸人にとって求められることであり、それを達成してこそ賞レースの頂点に立つことができるのでは…と思う。

 今回の記事について、忌憚ない感想や意見をいただけると幸いです。