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13年ぶりに「女性だけ」で扉をこじ開けたヨネダ2000

 日付はとうに変わってしまったが、昨日午後10時すぎに世界最高峰の漫才コンテスト「M-1グランプリ2022」の決勝進出者9組が発表された。

 栄えあるファイナリストたちの名前は、準決勝をたたかった28組を前に行った発表の動画で呼ばれた順に記すと以下の通り。決勝本番では敗者復活戦を勝ち抜いた1組が加わる。

 

ダイヤモンド(吉本興業・初)

男性ブランコ(吉本興業・初)

カベポスター(吉本興業・初)

ロングコートダディ(吉本興業・2年連続2回目)

さや香(吉本興業・5年ぶり2回目)

真空ジェシカ(人力舎・2年連続2回目)

キュウ(タイタン・初)

ウエストランド(タイタン・2年ぶり2回目)

ヨネダ2000(吉本興業・初)

 

 最初に呼ばれて破顔一笑のダイヤモンド、5年ぶりの返り咲きも当然といった表情で優勝を見据えるさや香など短時間の動画で数々のドラマを感じさせたが、何と言ってもしびれたのは、最後に呼ばれたヨネダ2000である。

 過去の最高成績が1回戦にもかかわらず、旋風の如き快進撃で準決勝まで勝ち進んだ昨年のヨネダ。惜しくも決勝9組からは漏れたのだが、当時の結果発表の動画でメンバーの誠(当時の芸名は清水亜真音)は悔しそうに下を向いてこぶしを握っていたのだった。相方の愛は諦念の漂う笑顔を見せていただけに、誠のたたずまいが私の目に焼き付いてしょうがなかったのである。

 そして今年。コロナ禍の下、名前を呼ばれた組が声を上げずに喜びを爆発させる中、映り込む誠に目が行く。ずっと目線が下を向いていて(まだ呼ばれないのか…)といった悲痛な表情で歯がみをしているのだ。

 こんな思いつめた表情をしている人、もし町中で見かけたら「大丈夫ですか?」と声をかけそうになるわ。しかし最後の1組でエントリーナンバー1794番と声がかかると、誠と愛はハッと顔を上げ、控えめに抱擁を交わすのだった。直後に誠は、右手でさっと涙を払っている。

 いやあ、本当に彼女たちが決勝に進んで良かった。

 何しろ中断をはさんで数えで22年の歴史を有するM-1グランプリ。女性コンビで決勝に進んだのは2005年のアジアン、06年の変ホ長調(アマチュア)、07、09年のハリセンボン以来4組目となる。

 実に13年ぶり、9大会ぶりとなる女性コンビのM-1ファイナリスト。2015年に大会を再開し、出場者のレベルが年ごとに上がっていると評判となってからのM-1決勝に駒を進めた女性コンビは、ヨネダ2000が初めてである。

 いきなり堅苦しい話に変わって恐縮だが、お笑いというジャンルは長らく男性優位が根強く続いていた。M-1の審査員に初回大会から就いている松本人志は、かつての著書で「女はお笑いに向かない」とミソジニー丸出しの文章を書いた。

 天才の名高い松本の発言の影響力は大で、ネットに居つくお笑い好きの間でも「女芸人は面白くない」という主張が金科玉条のように繰り返されていた。

 中でも忘れがたいのは、5chのお笑い芸人板の看板スレ「M-1グランプリ」にて以下の書き込みがされていたことだ。

 

0324 名無しさん (オッペケ Sr51-TSIT) 2022/08/30(火) 19:05:03.74
女芸人自体がパラリンピックみたいなもんだし
そこで売れてたってハイそうですかとしか言いようがない
男芸人たちがはっきり言わないだけ偉いよ
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id:Klvx99y0r

(5chお笑い芸人板のM-1グランプリスレから)

 

 女性芸人の実力はパラリンピック級。女性芸人に対するド直球のヘイトスピーチがされたにもかかわらず、スレ住民の反応は「ブラックジョークとしては許容できる」という肯定的なものだった。

 確か渡辺直美だったと思うが、女性芸人がバラエティー番組で「女芸人は、男の3倍ウケないと評価されない」という趣旨の発言をしていた。女性芸人はそのような過酷な現場を体験し、ネットの心ないヘイトスピーチを浴びせられていたのである。

 そうした女性芸人の苦境を、若手ながらコンビ解散→男性を入れてトリオ活動→再び元のコンビ結成という下積みを経験したヨネダが打開した。女性コンビのM-1決勝進出という快挙に、自分のことのようにうれし涙を流す女性芸人は多いと私は確信している。

 ヨネダ2000は12月10日、女性芸人の日本一を決める大会THE Wにも出場する。その8日後にはM-1決勝の舞台を踏む。

 彼女たちは自分たちの芸人人生のターニングポイントに立つだけでなく、長らく差別に苦しんできた女性芸人の歴史を塗り替える偉業に挑む。両方の大会で優勝すれば合計2000万円の賞金を得て、「ヨネダ2000万円」と呼ばれることにもなろう。ヨネダ2000の長くて短い師走が幸福なものとなるよう、今はただ見守りたい。