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忘れそうで忘れない 少し忘れていたものまね王座決定戦ネタ

 久しぶりに演芸評論家すが家しのぶ氏のネタである。最近は別のブログでこちらの人をいじっていたもので、すっかりすが家氏の方をごぶさたしていた。

 すが家氏のブログ「令和時代のお笑い公論」を閲覧すると、彼が本の宣伝をしていた。本と言っても電子書籍で、タイトルは『読む余熱』。お笑いやテレビのレビューを取り扱う本のようで、すが家氏は同誌のプレ創刊号に寄稿したという。

 すが家氏はtwitter(@Sugaya03)で自身のエッセー(?)の冒頭を紹介していたが、なかなかスベっていたw タイトルは「忘れそうで忘れない 少し忘れていたM-1漫才」で、彼が過去に観賞して衝撃を受けた「M-1グランプリ」(朝日系)決勝戦の漫才5本を紹介した内容だそうだ。ふーん。

 

 それなら私もやってみるか。およそ即興だが、フェイバリット演芸番組である「ものまね王座決定戦」(フジ系)から衝撃を受けた5本のものまね作品を紹介しよう。

 

森口博子工藤静香『嵐の素顔』」

 1989年冬の王座1回戦・栗田貫一戦で披露。現代で工藤静香のものまねといえばミラクルひかるだが、その嚆矢(こうし)が当時バラドルとして台頭を現しつつあった森口である。

 ワンコーラス通して聴くと、歌声そのものはあまり似ていない。しかし少しこわばった表情で、必要以上にキレのある振り付けを見せる森口の真摯(しんし)な姿は「このネタにかけているんだな」と思わせる説得力がある。

 森口渾身(こんしん)の工藤ネタは98点。対するクリカン飛鳥涼チャゲ&飛鳥)「モーニングムーン」も98点と同点に持ち込み四天王の意地を見せたが、当時の彼はジャンケンに弱いジンクスがあったw

 ジャンケンで四天王を下した森口はこの大会で準決勝まで進出。翌年春の王座では見事に優勝をつかみ、バラドルとして大ブレイクの道を邁進(まいしん)していった。

 

・布施辰徳「井上陽水『少年時代』」

 1992年秋の王座準々決勝・栗田貫一戦で披露。同年夏の「日本ものまね大賞」(フジ系)で審査委員長の鈴木邦彦から「この会場にいる人みんなが、あなたの優勝だったと思う」と絶賛するほどの出来で優勝を果たした布施のプロデビューとなった本大会。1回戦は小林旭ネタで優勝経験者の原田ゆかりを難なく退け、春の王座で優勝したクリカンと激突した。

 四天王相手に布施が繰り出したネタは井上陽水。ものまね王座で陽水ネタと言えば四天王の清水アキラだが、布施は下ネタになど頼らず(当たり前w)ご本人の柔らかな歌声をきっちりとトレースする。布施は少年時代ギターに熱中したそうで、歌う間のギターの指使いも堂に入っており(ここまで本格的なのか)と感心した記憶がある。

 得点は本大会初の100点満点。大型新人に真っ向から勝負せんとクリカンは渡哲也、石原裕次郎ら「西部警察」メンバーをまねする「くちなしの花」を披露するも、1点差で敗れ去った。

 この勢いで布施は初出場初優勝を達成。その優勝があまりに圧倒的だったので、私は(この人に勝てる人いないんちゃう?)と今後の王座を心配したほどである。布施は現在に至るまでものまね王座の常連であり、クリカンとともに若手の壁として君臨し続けている。

 

星奈々いしだあゆみブルーライトヨコハマ』」

 1994年秋の王座準々決勝・笑福亭笑瓶戦で披露。星は前年夏の特番「日本ものまね大賞」での活躍が認められ、同年秋の王座でデビューした。

 しかし2大会続けて初戦敗退。特に93年冬の王座で披露したホイットニー・ヒューストンのネタは会場から「スゴイ!」と感嘆の声が上がるも、この大会で優勝したC.C.ガールズに屈してしまう。この採点結果に納得できない観客もいて、ブーイングが飛んだのは忘れがたい。

 プロデビュー1年の節目、準々決勝というヤマ場で星が繰り出したのは当時で四半世紀前のナツメロブルーライトヨコハマ」だった。「♪街の明かりが~」という出だし、いしだの特徴的な節回しを完ぺきにコピーし、審査員席の野口五郎が「信じられない」と言わんばかりに目を丸くしていた。

 ふくらみのあるいしだの声質を忠実にトレースした星に減点要素などなく、文句なしの100点満点をたたき出した。この勢いで、星は悲願の初優勝を果たした。

 しかし今もって不思議なのは、なぜ星が楽に勝てる笑瓶相手にこの名作をぶつけたのかであるw ちなみに笑瓶が披露したネタはローリー寺西であった。(得点は96点)

 

ダチョウ倶楽部森本レオウルトラマンレオジャングル大帝レオ『港のヨーコヨコハマヨコスカ』」

 1995年春の王座準々決勝・岡本夏生戦で披露。リアクション芸人のレジェンドたるダチョウだが、かつてはものまね王座の常連だったキャリアを有する。当初は初戦負けが込んでいたが、リーダー肥後の美声を前面に押し出したネタで勝率が上昇した。

 王座デビューから8年目、岡本の浅野ゆう子ネタに対抗したのが肥後の森本レオである。当時は森本自身が王座の審査員を務めており、会場は大盛り上がり。番組を視聴していた私は、かねてから肥後の声は森本に似ていると思っていたので「あーダチョウの勝ちですわ」とネタを見る前から結果を予測したw

 ダチョウ、というか肥後は私の期待に応えて(?)100点満点(岡本は93点)。この大会は決勝まで進むキャリアハイを記録し、翌96年冬の王座でダチョウは悲願の初優勝をもぎ取るのだった。

 

・ビジー・フォー「カルロス・サンタナ『Black Magic Woman』」

 1995年冬の王座1回戦・ダチョウ倶楽部戦で披露。四天王の一角をなすビジー・フォーが得意とする洋楽ネタだが、この出し物は非常に印象深い。

 何といっても目を引くのはネタの構成の妙だ。長髪パーマのカツラにサングラスでサンタナに扮(ふん)したモト冬樹が、イントロでさっそうとギターソロを決める。

 冬樹の横におわすはグッチ裕三。今でいうマツコ・デラックスのような黒装束を身にまとい、エジプトの人形のようなメイクを施した怪しい風体のグッチは、いつもの高音とは違う渋い低音の歌声で聴かせる。

 …って、冬樹じゃなくておまえが歌うんかい! しかしグッチの歌声も30秒弱といったところで、後は再び冬樹のギターソロをうならせてネタが終了した。

 ネタの3分の2が伴奏というネタ構成。グッチの風体と相まって、およそゴールデンの特番とは思えない前衛的な演芸を見せてもらった気がした。このネタは99点を記録し、久米宏の「ニュースステーション」ネタで挑んだダチョウを1点差で退けた。

 

 …てな感じで5本のものまねネタを選んだが、どないでしょう。「古いネタばっかりやないかい」と言われそうだが、比較的新しいネタは改めて紹介しようかと思う。

 あ、そういえば、すが家さんは結婚されたそうで。おめでとうございます。まあ、私に祝われてもちっともうれしくないでしょうがw