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「未来少年コナン」に魅了されたきみら、新日本婦人の会にお礼言っとくように

 新型コロナウイルスの影響で地上波のテレビ番組は再放送が増えているが、その「副産物」の一つがNHKテレビの傑作アニメ「未来少年コナン」の再放送だろう。NHKが初めて手がけた連続アニメであり、巨匠宮崎駿の初監督作品である。

 私はテレビを見ない生活を続けているが、某動画サイトで「コナン」第1回を視聴した。この作品は高校時代にNHK衛星放送第2(当時)の再放送で見たのだが、初回はたぶん見逃している。

 しかし初回はすげえな。実写でもアニメでも連続ものの第1回となれば、作品紹介的な感じでゾロゾロと主要人物が出てくるのがセオリー。「コナン」の初回は6人と1匹(コナン、ラナ、おじい、モンスリー、クズゥ、飛行艇の運転士、ハナジロ)しか出てねえからな。あとナレーターの伊武雅之(現・伊武雅刀)。

 そして終盤の畳みかけよ。インダストリアの連中がラナをさらい、彼らを乗せた飛行艇をコナンは追いかけ、その翼に乗っかる…てな引きで初回放送を締めるってのがね。

 

 私が尊敬する漫画評論家でブロガーの紙屋高雪氏は、連れ合いと一緒に再放送初回を見たという。その際の興奮と感動をブログ「紙屋研究所」で記している。ここで紙屋氏は、以下のような注記を施していた。

 

 義母は左派系の教員「活動家」であった。当時新日本婦人の会などの女性団体が「低俗」なアニメや番組を批判する運動を展開していて「健全」で大人も子どもも共有できるようなアニメの制作を提案していた。その成果としてNHKのアニメの枠があり、「コナン」がある…と1990年代後半に、ある新日本婦人の会の大物幹部を取材した時に聞き、資料を見せてもらったことがある。

 

 40年後もNHKで再放送されるほどの傑作「未来少年コナン」を制作するきっかけには、女性団体「新日本婦人の会」の提案があった…という話だ。実はこのくだり、私にも聞き覚えがあった。

 確か日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」の記事であったような…と、30年近い赤旗読者である私は思い出し、そのおぼろげな記憶から調べてみた。そしたらありましたよ。1998年5月23日・24日付に掲載された「子どもとテレビ」という座談会がある。

 出席者はアニメーション映画監督の有原誠治、当時の新日本婦人の会(新婦人)会長で日本共産党参院東京選挙区候補(のちに当選して参院議員1期)の井上美代、そして病院職員の男性、国会議員団事務局員の女性、主婦ら5人。座談会の「下」において、有原と井上の間でこんなやりとりがある。

 

井上 コマーシャリズムに走らない、よいアニメを放送してほしいとNHKに要望して、78年にNHKで初めてのアニメ「未来少年コナン」が誕生しました。

有原 こちらの「コナン」は、未来の地球を舞台に主人公のコナンが仲間と出会い、さまざまな冒険をしていきます。宮崎駿さんらが演出しました。

 

 有原が「こちらの『コナン』」と言っているのは、座談会の「上」で「名探偵コナン」は殺人事件が出てくるので、出席者の主婦の子どもが怖がっている…というくだりを受けてのものだと思う。ともあれ肝は、紙屋氏の注記を裏付けるように新婦人の要望が契機となって稀代の名作「未来少年コナン」が誕生したことだろう。国会議員団事務局員の女性は「当時、わくわくして見ていた」と言い、自身の3人目の息子に「湖南(コナン)」と名付けたという裏話まで披露している。

 

 翻って現代の話に戻るが、井上が会長を務めた「新日本婦人の会(新婦人)」と聞いて、思い出すのは幼児向け知育図鑑『はじめてのはたらくくるま』(講談社ビーシー)の件だと思う。同書は陸上自衛隊の戦車や装甲車などを紹介。これに対して、新婦人の会や児童文学関係者は講談社ビーシーに懸念を伝えた。その結果、講談社ビーシーは『はたらくくるま』の増刷を止めることにした。

 ここからはご承知の方も多いだろうが、講談社ビーシーに圧力をかけたと誤解して、新婦人に抗議が集中した。当時、殺到した抗議に対する新婦人の声明はこちら

 今の段階で、新婦人にヒステリックな抗議をした連中へ声をかける義理はないけども、彼らの圧倒的多数は今回の「未来少年コナン」再放送を熱狂のままに視聴したことは想像に難くない。きみらの大好きな「未来少年コナン」は、きみらが忌み嫌う存在である新婦人の尽力がきっかけで、宮崎駿のような巨匠が昼夜を分かたず制作に力を注いでできたもんだよと。

 だからきみらは、せめてもの義理として新婦人の皆さんにはお礼を言うのが筋だと思う。現場からは以上です。byカズレーザー