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佐々木倫子「Heaven?」ドラマ第3話を見て単行本1巻を読む(原作ネタバレあり)

 先日、佐々木倫子原作の連続ドラマ「Heaven?」(TBS系)の第3話をTVerで視聴した。第4話放送当日の30日まで視聴できるので、まだの方はこちらから。↓

tver.jp

 この回は「Heaven?」の主人公であり、謎の女性黒須仮名子(石原さとみ)がオーナーを務めるレストラン「ロワン・ディシー(この世の果ての意)」にてサービスマンの要である伊賀観(福士蒼汰)を長崎から母親・勝代(財前直見)が連れ戻しに来る話が縦軸になっている。このレビューで取り上げるのは、話の横軸となる「傘」のお話。

 原作では第1巻に所収したエピソードだ。珍しく「ロワン・ディシー」が満席となった雨の日の夜、店員たちはある夫婦の傘を別の客に間違えて渡してしまう。その傘は、夫婦にとって息子の形見。伊賀はじめ店員は間違えて傘を渡した客探しに奔走する…という筋立てである。

 

 「Heaven?」のドラマについては第3話を見る前から、ネット上で「原作を忠実に再現している」という前評判は聞いていた。ストーリー運びには定評ありまくりの佐々木作品なので、それはまあ当然っちゃ当然だなと見る前から思っていたが、実際に視聴すると予想以上に原作に忠実だな…てのが率直な感想であった。

 傘の話は謎解きの要素もあり、個人的には原作でも屈指のエピソードだと思う。なので電子書籍で「Heaven?」の第1巻を読み直してみた。すると結構、「えーこの原作の設定ドラマに生かしていないの?」と首をひねる羽目になったというw

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佐々木倫子「Heaven!?」第1巻160ページから)

 原作を読み直してジワジワ笑えたのが、傘を間違えて渡した相手の見当がついたときの↑のコマである。伊賀も苦言を呈しているが黒須の犯人扱いと「パクる」という物騒な言葉、山田①(ドラマでは山田B、演者は六平直政)の顔に「WANTED!!」の字を掲げるあたりは佐々木作品らしからぬテンションの高さを感じさせる。

 このコマで、当日の電話予約の応対をした(で、同時間帯に「山田様3名」の予約を3つ取り付けた)川合太一(ドラマの演者は志尊淳)が山田①に電話番号を聞いたら怒られた趣旨の発言をしている。川合はマニュアル通りに電話番号を聞いたが、山田①には「何で教えにゃならん」と拒否されてしまったのである。

 これがその後の混乱を招くきっかけになったのだが、ドラマではこのくだりが一切カットされていた。原作では山田①本人の自宅の固定電話の番号を店のみんなで推理するのだが、ドラマでは山田B(前述のように山田①からなぜか変更)の娘の携帯番号を推理するくだりに変わっていた。

 

 原作では、山田①の親子の会話から「善福寺」の地名が出てきたと黒須たちは知る。原作のこのシーンで、東京都杉並区にある善福寺という地名を知った人は多いのではなかろうか。私もそうであるw そこから連中は山田①の家電の局番を推理するのだが、最後に黒須がズバリと8ケタの電話番号を言い当てる以外、そのくだりはドラマでは全カットだった。

 ただまあ、ドラマでは山田Bの家電ではなく、娘の携帯番号を推理すると改変した時点でそのくだりが破棄されるのは当然かもしれない。その上で私が驚いたのは、ドラマで伊賀が山田Bの娘の携帯に電話を入れる前にふらりと山田B本人が「ロワン・ディシー」を訪れたことである。

 なぜかというと、原作では山田①の家電と思われる電話番号にかけても3日も応答なしという展開だったからだ。んで、その日の雨の夜に山田①…その正体は黒須も顔見知りの作家・山田泰三(ドラマでは映画監督)…が店に傘を返しに来るという流れであった。

 まあドラマでは勝代が観を連れ戻しに来る(存在感のない夫・静…演者は鶴見辰吾…とともに)展開が同時進行だったので、原作通りに時間をかけられない事情があったのかもしれない。ただここで改めて気になるのが、原作での山田泰三の電話番号を教えるのを拒否したくだりである。原作では、顔見知りらしき黒須の口から「すごい電話嫌い」だと山田の人となりが紹介されている。

 よって私は、ドラマで山田の家電番号を伝えるのを拒否、その後の電話に出ないなど諸々のくだりをカットしたのは「ドラマで『電話嫌い』というワードを出したくなかったんじゃねえの?」と思っている。スポンサーが携帯会社だったとかさあw 俺はTVerで視聴したからスポンサーがどこか知らないんだけど、そういう大人の事情があったのかなと。

 

 さて今後、私が「Heaven?」のドラマを継続的に視聴するかといったら「見れたら見るわ」て感じかな。店長・堤役の勝村政信、ソムリエ・山縣役の岸部一徳はハマっているが福士、志尊、そして黒須役の石原がイマイチ。リアルタイム(2000年代前半)で原作を読んでいた私は、黒須役を木村多江でイメージしていたので。ネット上でも「松雪泰子」「米倉涼子」で見たかったて人を見かけたな。今さらせんないけど。

 

 ここからはオマケ。息子の形見の傘を持ち帰った客候補は原作とドラマで若干の相違点がある。原作では候補者の一人に「金成様」が出てくるが、早めに却下されている。その金成様のビジュアルはこちら↓。

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(「Heaven!?」第1巻140ページから)

 山田泰三の持っている傘(別れた妻の傘)の手入れが悪かったことから、金回りのよさそうな金成は候補から外されたわけだが、↑のコマを見るとどうやら金成は若い愛人にプレゼントを渡したもようである。こういう光景は高級レストランでは珍しくないのかもしれないが(見たことないけど)、ふと思い直す。

 そういえば「ロワン・ディシー」はどの駅からも歩いて15分以上はかかり、交通の便が悪くて道に迷いやすいという店だった。そんな不便な店の予約を取って、足元の悪い雨の中をやってきて愛人にプレゼントを渡す金成…。うむ、ビミョーに金成の好感度が上がった気がするw え、そうでもない?

 

 ちなみに私自身は、フランス料理の店に行ったのは数年前の1度きりだな。仕事で世話になった人との打ち上げで、上司と一緒に行ったのよ。店の人には悪いけど、何食ったかコース自体忘れちまったわw