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ちばあきお『キャプテン』電子書籍版8巻(集英社)

 野球漫画不朽の名作、ちばあきおの『キャプテン』の電子書籍版8巻を購入した。なぜ8巻かと言うと、これは初出である紙媒体「ジャンプ・コミックス」(集英社)の13~14巻にあたるからである。舞台は中学野球東京都予選決勝戦。イガラシキャプテンが束ねる墨谷二中と、イガラシの小学時代のチームメイトである速球派投手・井口が率いる猛打の江田川中との激戦が収録されている。

 私は『キャプテン』において、このイガラシ世代の墨谷二中×江田川中が最高の名勝負だと思っている。何と言っても見どころは、墨二2点リードで迎えた9回裏の攻防であろう。

 打倒イガラシに執念を燃やす井口は4番打者として自らのバット(犠牲フライ)で1点を返し、さらにイガラシの読みを上回る代打策を的中させ同点。ワンアウト3塁の好機を得て、ここで勝負をかけると次々と自慢の代打を送り込むという緊迫した展開だ。

 ここから墨二側はスクイズの警戒などから江田川の代打陣に連続四球を与え、結果的に満塁策を取る。ここでのイガラシの采配は目を見張るものがある。

 9回途中からイガラシの後を受けてマウンドに立った近藤だが、速球派である己のプライドから敬遠を嫌がる。そこへイガラシが「なんならおれがやってやろうか」と提案。わざわざワンポイントで交代して敬遠役を買って出たのだ。

 近藤は晴れやかな顔で喜ぶが、捕手の小室がこれに激高。まあこれには伏線があり、この江田川戦で近藤は打席でサインを見逃すし三振を重ねる。守れば(もともと守備が苦手とはいえ)9回のエラーでピンチをつくってしまうといいとこなしだったので、小室が「てめえなにさまだと思ってやがんだい!!」と怒るのもまあ分かる。

 しかし勝つためには近藤の力が必要と考えるイガラシは冷静だった。近藤の立ち居振る舞いにいちいち憤る小室をいさめる場面は圧巻である。

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(『キャプテン』電子書籍版8巻「あせるな!!墨二ナイン」から)

 まあこの巻を読んでいたときは私は小学低学年だったが、あまりにも自分勝手な近藤に読みながらイライラしていたからねw 読者の多くは小室と同じ心情を持っていたのではと思うが、そこでイガラシが小室を叱るのである。しかも「おまえこそ(捕手)失格だぞ」という厳しい言葉で。キツネにつままれたような小室の表情が、何とも言えず絶妙である。

 そしてイガラシは投球前に敬遠の練習をするのだが、案の定江戸川の応援団から辛らつなヤジが飛ぶ。イガラシは心の中だけで(どうどでもほざけ)とつぶやく。ヤジにカッカしていたら近藤と交代した意味がなくなることもあり、非常に冷静だ。

 さすがの近藤も、サードでうつむいてすまなそうな表情をしていた。再びマウンドに立った近藤は江田川とっておきの代打・遠井、そして9番田村を抑えてしのぎ切り、墨二の延長戦勝利をもたらした。まあそこに至るまでの苦闘はあるが、今回はおいておく。

 終わってみれば、選手としてのプライドも捨てたイガラシの采配が的中し、井口の執念を抑え込んだ試合だったと言えよう。近藤に代わって敬遠するとき、小室は(しかしよくがまんできるぜキャプテンも!)と心中でつぶやいているが、私もここ数年、共産党委員長の志位和夫に同じ思いを抱いている。共産党参院選の選挙区で野党候補の統一に心を砕いているが、党首である志位はそうとう他党との調整、交渉は我慢に我慢を重ねているだろう。

 だから私はここ数年、江田川戦でのイガラシの心配りに「スゲエな」と感嘆しているw 社会人の上司ともなれば求められる資質かもしれないが、イガラシは中学生だからね。試合終了後の井口とイガラシのすがすがしい握手を含め、個人的には鮮烈な印象を残し続ける名勝負である。