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創価学会(ナイツ)にも共産党(しんぶん赤旗)にも再評価される吉幾三「俺ら東京さ行ぐだ」

 お笑いの漫才やらコントやらの動画を視聴するのが好きな私だが、ちょくちょく何回も見てしまうネタの一つが、2008年M-1グランプリ3位の肩書を持つナイツの「吉幾三」ネタである。M-1の復活年であり、ナイツにとって出場期限のラストイヤーであった(期限を10年から15年に拡大)2015年大会の敗者復活戦でかけた演目だ。

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 M-1敗者復活戦のときの動画も見られるのだが、翌年に北川景子の配偶者であるDAIGO司会の特番「UWASAのネタ」(日本テレビ系)で披露したときのネタの方が洗練されていると思う。このナイツの「吉幾三」ネタは、単純に言えばツッコミの土屋がただ延々と吉の代表曲「俺(お)ら東京さ行ぐだ」を歌うのをボケであるはずの塙がツッコむというもの。普段のツッコミとボケの役割が逆転した漫才だが、淡々と歌ったり合の手を入れるだけの土屋に熱く人さし指を高く掲げて塙が若干照れくさそうにツッコむ展開はひたすらにシュールで、お笑いファンの間でも「ナイツがこんなネタやるのか…」と賛否両論を巻き起こした。ちなみにM-1敗者復活戦と「UWASAのネタ」とでは、土屋が歌い始めるくだりのフリが違っている。

 またナイツは塙、土屋とも創価大学落語研究会出身というプロフィールから分かるように、ゴリゴリの創価学会員である。そんな2人が「俺ら東京さ行ぐだ」の「婆さんと 爺さんと 数珠を握って空拝む」の一節を歌い、「どんな宗教だよ!」と横からツッコミを入れる姿には、ネタの全体的な内容に輪をかけたシュールさを感じた次第だ。

 

 このナイツの吉幾三ネタにライバル心を燃やしたわけではもちろんないだろうが、創価学会からは「仏敵」などと不倶戴天(ふぐたいてん)の敵とみられている政党・日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」日刊紙でも、短くではあるが吉の「俺ら東京さ行ぐだ」を取り上げた記事が掲載された。11月17日付学問・文化欄の新連載企画「昭和歌謡わしづかみ考現学」で取り上げられている。以下のリンクは、恐縮ながら私がtwitterで同記事を紹介したつぶやきである。

  「昭和歌謡ー」はライターの岡崎武志氏とDJの郷原一郎氏が、対談形式でテーマ別に昭和歌謡の隠れた系譜をあぶり出すという企画だ。いわゆる外部筆者による記事で、この内容が共産党の方針を反映したものではもちろんないのだが、機関紙「しんぶん赤旗」でこうした連載をやること自体かなり異例であることは頭に置いていただければ幸いである。

 この栄えある連載第1回は「上京・望郷・帰郷歌謡」がテーマだ。「俺ら東京さ行ぐだ」は井沢八郎ああ上野駅」、太田裕美木綿のハンカチーフ」、石川さゆり津軽海峡・冬景色」といった並み居る名曲とともにジャケット写真付きで紹介されている。

 岡崎氏は1984年に発表された吉のこの代表作を「望郷(歌謡)ではなくなる」と論じている。それまでの上京歌謡は望郷への思いがセットで歌われていたとしており、「俺ら東京さ行ぐだ」はエポックメーキング的な作品であったと分析している。

 郷原氏は当時「田舎をバカにしているのか」と批判を呼んだ歌詞について発表前年に 社会現象となったNHK朝ドラ「おしん」の影響もあるのではとみつつ、その詞には時代を先取りした積極性があるかのように評価している。

郷原 銭をためて東京で牛を飼う、銀座に山を買う、と歌っていて、当時は荒唐無稽に聞こえましたが、今、都会で廃棄される有用な資源を都市鉱山と呼んで活用するリサイクルビジネスもありますし、先日は東京・大手町のビルに牧場ができたというニュースを見ました。三十数年後の現在では東北出身者の立身出世歌謡に変貌しているとも言えます」

 まあ吉幾三がそうした未来を予見してこの歌を作詞作曲したわけではもちろんないだろうが(もともと作詞も作曲も手がけるシンガー・ソングライターな演歌歌手は希有な存在だが)、世紀をまたいでのこうしたニュースと関連付けされて語られるところに、「俺ら東京さ行ぐだ」という曲のエネルギーの強さを感じると言うのは、いささか強引に過ぎるであろうか。

 

 さて締めくくりというのも何だが、ここで吉幾三本人の「俺ら東京さ行ぐだ」の熱唱を収めた動画を紹介しよう。何本か見られるが、私が薦めたいのは以下の動画である。「夜のヒットデラックス」(フジテレビ系)のもので、彼の故郷青森県金木町(現・五所川原市)の住民の方々が応援に駆けつけたものだ。

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 動画を見ていただければ一目瞭然と思うが、とにかくエネルギーに満ちた映像である。テレビカメラの前でやや緊張した、しかし勢いのある金木町の人々の拍手を背に、まるで光GENJIを先取りしたかのアイドル的な衣装でw高らかに歌い上げる吉の雄姿には、私まで勇気をもらった気になってしまう。

 私が「俺ら東京さ行ぐだ」を初めて聴いたのは小学時代の「ザ・ベストテン」(TBS系)。子どもだった私は歌詞と歌い方がおかしくて笑い転げてしまったが、当時中学生の姉は「こいつは田舎をバカにしている!」と憤慨していたのを思い出す。

 曲を作って歌う当事者の吉のもとには、このようなバッシングは何千何万と届いたことだろう。しかし今日、この曲がまっとうに評価されたことは約10年前に「日本語ラップの先駆者」としてネット界隈で関連画像が多数作成されたことをはじめ、創価学会員のナイツが漫才のネタに採用し、さらに創価学会とは政治的立場の極北にある共産党の機関紙「しんぶん赤旗」の記事で好意的に取り上げられたことでも明らかであろう。

 発表から33年。格差と貧困が拡大し、TPPなど農村切り捨て政策が容赦なく進められている今日の日本でこそ、吉幾三の心の叫びが投影された「俺ら東京さ行ぐだ」がさらなる再評価を得てほしいと切に願っている。

 うむ、すげえ硬い終わり方だw