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「THE W」決勝戦感想その2

◆ファーストラウンド

第2試合

アジアン(よしもとクリエイティブエージェンシー)×紺野ぶるま松竹芸能

 テレビは約3年ぶりとされるアジアンのツッコミ・隅田。ブランクが懸念されたが、カラッとした声質でのきっぷのいいツッコミは健在で安心した。

 むしろ見ていて心配になったのはボケの馬場園のエンジンのかかり具合であった。街で声をかけられたファンへの対応をテーマにした漫才であったが、どうも「隅田さんを楽器にたとえたら…」「隅田さんを春の七草にたとえたら…」のボケの爆発力が今一つだったと思う。隅田の横顔を「し」「レ」にたとえたのは笑えたが、もっと馬場園らしい突拍子のないボケをポンポン放り込んでほしかったうらみが残った。

 個人的採点は88点。

 後攻の紺野は、喫茶店という公の場で繰り広げられる男女の別れ話コント。主人公の紺野が、なぜ浮気をしてしまうのかという自己分析で「コミュ力が高いから」という変化球を放つナンセンスな内容だ。

 テレビで見るより、生の舞台で見た方が面白いんだろうなと思った。実際、自分がいる店の近くの席でこういうカップルのけんかがやられていたら、不謹慎ながら両肩を震わせて笑ってしまうだろう。「ゴッ、ゴッ」とかのワードにセンスを感じたので、その辺のネタの広げが欲しかったところだ。

 個人的な採点は82点。

 対戦結果はアジアン300-101紺野でアジアンの快勝。2005年M-1ファイナリストが初の女性芸人王座にリーチをかけた。

 

第3試合

中村涼子(ワタナベエンターテイメント)×牧野ステテコ浅井企画

 個人的には、この対戦がもっとももつれる勝負になるとみていた。今回の「THE W」と同じ対戦形式で行われた2014年のキングオブコント1回戦シソンヌ×巨匠(54-47でシソンヌ勝利)のような名勝負を期待していた。

 「女性版マツモトクラブ」と称される先攻の中村は、最初の1分間に限ればファイナリストの中でも突出していた出来栄えだったと思う。カッコいい男性の幽霊と恋愛関係に陥るという筋立ては少し見る人を選ぶかもしれないが、まあその手の物語は上田秋成雨月物語」の頃からあるからなあ。ある意味古典で、ごまかしの利かないネタによく挑んだと思う。

 比較対象とされるマツモトクラブは一つのシチュエーションをじっくりと演じ込むタイプのコントをよく作るが、中村はジェットコースター的な展開で30歳女性と幽霊男性の恋の行方を追う。「幽霊に抱きしめられると冷たい」という前振りを利かせたオチは意表を突かれたが、なにしろ展開が早くて笑いにくい雰囲気のネタになったのが惜しまれる。ゆうくんが実際に主人公の両親に会いに行くエピソード、見てみたかったなあ。このコントは10分、15分でもやれると思う。

 個人的な採点は90点。

 後攻は馬鹿よ貴方は・新道に「出て1秒で面白い」と太鼓判を押された牧野ステテコ。いやあ、俺は録画で見たんだけど午後9時台にM字開脚しながら股間を指さして「パワースポット」つったんだろ? ようできたなw

 まあシンプルな内容ながら、キャラ設定とセリフ回しの塩梅が絶妙だと思った。キャラの高慢さと自虐的なギャグとのバランスも取れていて、ある種の清潔感すら感じるw後半、ポールに犬がつながれたとかおとなしめのネタが来ていたので、そこはもっと冒険してもとは思った。

 個人的な採点は89点。

 果たして、審査員の投票結果は中村190-211牧野。アングラ芸人の乾坤一擲(けんこんいってき)、牧野ステテコが最終決戦へ名乗りを上げた。

 それにしてもこれ、録画で結果を見たときはすげえ驚いたぜ。過去の記事で決勝戦の結果を予想したとき、票差まで一応書いたんだけど、中村190票、牧野211票てのが全く同じだった。「おいスタッフ、このブログ見とったんちゃうけ?」とありえないことを疑ったほどであるw

 

 続きます。

女性芸人をダシにした女性差別を許さないカウンター行動の宣言&「THE W」決勝戦感想その1

 今回から「女芸人日本一決定戦THE W」決勝戦日本テレビ系)のレビューを始めるが、その前に宣言しておきたいことがあります。

 それは「女はお笑いが分からない」「女はお笑いに向かない」「女芸人は、男の芸人よりも劣る」といったすべての「女性芸人をダシにした女性差別の発言」は絶対に放置してはならない、ということです。今回の「THE W」決勝戦放送の前後(特に放送後ですが)において、上記の趣旨の発言がネットに非常にはびこりました。

 ある程度その手の事態は大会開催発表時から予想はしていましたが、それでも私は辟易(へきえき)しました。そうした心ない差別発言は予選からベストを尽くしてたたかってきた636組の女性芸人の皆さんを冒瀆(ぼうとく)するものです。同時に、こうした状況をお笑い好きの端くれとして放置するわけにはいかないと思いました。

 そういうわけで、民族差別を扇動するヘイトスピーチに抗議する市民のカウンター活動のように、女性芸人をダシにした多数の女性差別発言を許さないカウンター活動もやっていくべきだなと思うに至りました。微力ではありますが、自分なりにネット上にはびこる女性芸人への差別的な言動を一掃する取り組みを実践していくつもりです。

 

 さて、「THE W」決勝戦のレビューに入りたいと思います。

◆ファーストラウンド

第1試合

はなしょー(ワタナベエンターテインメント)×ニッチェ(マセキ芸能社)

 ニッチェに憧れ、この決勝戦ファーストラウンドでも対戦を所望したというはなしょーが先攻。胸を借りる舞台で繰り出したのは昼休みでの女学生の秘密の会話…という一見オーソドックスな設定のコントだ。コント中に名前が出てきた広瀬すずが、実際に「先生!」という今年公開の映画で教師との恋愛を演じていたので、タイムリーと言えばタイムリーなのかw

 教育実習生に恋したというはなを全力で否定にかかるしょーこ…というシンプルかつストロングスタイルのコントだが、しょーこの言動に対するはなの「頭が鉛のように重い…」「言葉のブレーキをかけよう」てなコメントが結構ツボる。はさみ込んでくるはなの顔芸も印象的だ。この辺、顔芸はイモトアヤコ、コメントはハライチ澤部とナベプロの先輩の影響を感じなくもない。

 まあ後半は、もう一展開欲しかったところ。導入部でせっかく他の生徒に隠れて会話し、大声を出してはいけない設定もあったのだから周りの生徒に知られてしまうという展開になって、そこからのオチを見たかった。あとラストの「キビシー」は財津一郎やがなw

 個人的な採点は85点。

 

 後攻はニッチェ。ファミレスチェーンを手掛ける女性社長が、店舗の状況を潜入調査するという、こちらもコントの題材としてはよく見かけるタイプの作品であるが、はなしょーの一枚も二枚も上手を行った。

 江上の「宝ー!!」や顔芸もさることながら、店長を演じる近藤のきっぷのいい正論キャラが、コントにある種の心地よさをもたらしている。世間を見渡してみれば、森友・加計問題をはじめとして権力者に媚びて甘い汁を吸おうとする連中の多いこと。そういう意味で、忖度(そんたく)をしない姿勢を貫く近藤店長には大いにシンパシーを覚え、気持ちよく江上のリアクションを楽しむことができた。まあ時給は労働者の権利として上げてもらうよう要求していいと思うが。

 このコントならキングオブコント(KOC)の決勝でも一定の評価はされそうだが、ニッチェは一度としてKOCの決勝に上がったことがないんだよな。10回開催して、ほかの女性コンビがKOCの決勝に上がったこともない。本当、その審査基準には疑問を抱かざるを得ないとこの場を借りて書かせていただく。

 個人的な採点は91点。この勝負の個人的な軍配はニッチェに挙げた。

 

 第1試合、審査員401人(タレント審査員柴田理恵、ヒロミ、生瀬勝久新川優愛吉田沙保里若槻千夏の6人と一般審査員395人)による審査結果ははなしょー116票、ニッチェ285票。ニッチェが貫録を見せつけて得票率7割、最終決戦進出を果たした。

 

 続きます。

「女芸人№1決定戦THE W」優勝者予想!

◆ファーストラウンド結果予想

(数字はタレント審査員、一般審査員合計401人によるだいたいの票数)

第1試合

●はなしょー131×ニッチェ270○

第2試合

○アジアン290×紺野ぶるま111●

第3試合

中村涼子190×牧野ステテコ211○

第4試合

○まとばゆう230×押しだしましょう子171●

第5試合

どんぐりパワーズ91×ゆりやんレトリィバァ310○

 

◎最終決戦進出

ニッチェ

アジアン

牧野ステテコ

まとばゆう

ゆりやんレトリィバァ

 

 第1試合はコント師同士の対決。今回の組み合わせはクジではなく、各自が順番にトーナメント表の好きな場所へ自分の行きたいところを選べるシステムだったようだが、ネットの情報によると、はなしょーがニッチェとの対戦を要望したのだという。

 若さゆえのはなしょーの大胆不敵さが感じられるエピソードだが、それに応えたニッチェの懐の深さに私は感心している。ゆえに、この対戦はニッチェが貫録を見せて勝つと予想する。

 このほど、久しぶりに「アメトーーク!!」(テレビ朝日系)の「オリラジ同期芸人」を見た。この回、他事務所でオリエンタルラジオの同期としてニッチェが出演していたのだが、彼女たちはオリラジデビュー時は現在のマセキ芸能社に所属しておらず、賞金ありの地下お笑いライブで優勝を重ね、「お笑いコンテストの山賊」と呼ばれたという。そして当時大ブレイクしていたオリラジについては「大学生の笑い」などと嘲笑していたらしい。

 そんな尖っていた頃のニッチェの再来を、栄えある「THE W」の決勝戦で見せてほしいと私は思う。よって第1試合はニッチェの勝ちを予想する。

 

 第2試合はファーストラウンド唯一のシード組同士の対戦だ。紺野は今年のR-1ぐらんぷり2017で敗者復活ながら堂々のファイナル進出。今回の決勝入りも説得力十分と言えるが、対戦するのがファイナリスト唯一の漫才師であり、かつM-1グランプリ2005ファイナリストという実績を有するアジアンである。

 もともとの実力の上に、今回は長らくテレビから遠ざかっていたツッコミの隅田美保が久々の出演と話題性も申し分がない。手数の多い漫才というスタイルを加味して、紺野にキャリアの差を見せてアジアンが最終決戦進出とみている。

 

 第3試合は、これも唯一のノーシード同士の対決。ネット界隈では「女性版マツモトクラブ」とうわさされる音響系ピンネタの中村と、馬鹿よ貴方は新道に「出番1秒で笑いが取れる」と賞賛された牧野の対戦で、私はこの試合が一番もつれるとみている。

 果たして結果は、僅差で牧野が勝つと私は予想する。彼女のような飛び道具系のネタは、生放送という舞台でハマれば異常に強い。もちろんダダ滑りをする危険性も否めないが、これまでハリウッドザコシショウアキラ100%といった飛び道具系のピン芸人がR-1を制してきたという前例もある。ということで牧野に札を挙げる。

 

 第4試合は比較的フレッシュな知名度の芸人同士の対決。どちらも現在、事務所に籍を置いていないフリー芸人である(まとばは、以前じゅんいちダビッドソンアミー・パークに所属)。

 鳥取市職員という異色の経歴を有する押しだしましょう子は、決勝前からネットニュースで話題になっており、アマチュアながら今大会の台風の目とも言えるが、彼女のネタは相撲に大きなウエートを置いている。言うまでもなく、現在の大相撲界は非常にネガティブな状況に置かれており、これが視聴者投票に影響しないか心配になる。ここは歌ネタという安定感ある芸風のまとばが、プロとして押しだしまに力の差を見せて最終決戦に駒を進めると予想する。

 

 そしてファーストラウンドトリの一戦は、R-1に3年連続決勝進出という実績を持つゆりやんに、結成8年目の重量級コント師どんぐりパワーズが先輩ながら挑むという構図。下剋上を期待したいが、ゆりやんは予選ではドラえもんの着ぐるみでネタを披露するという反則ぶりであった。

 ダイジェストで見ただけだが、そんなん絶対面白いだろう。よってこの対戦は、ゆりやんの快勝とみている。

 

◆最終決戦結果予想

優勝 ゆりやんレトリィバァ 151

2位 牧野ステテコ 90

3位 ニッチェ 70

4位 アジアン 60

5位 まとばゆう 30

 

 まあファーストラウンドの結果がどうなるか分からない段階での予想なので、全くの勘でしかない。多彩なネタを繰り出せる引き出しの多さを見込んで、ゆりやんが第1回の栄えある「THE W」王者(女王?)と予想する。

 しかし興味深いのは審査員の形式である。柴田理恵生瀬勝久、ヒロミ、新川優愛吉田沙保里若槻千夏というタレント審査員のほかに395人もの一般審査員がおり、それぞれが1票を投じるのだ。

 いやあ思い出すねえ、「爆笑オンエアバトル」(NHKテレビ)を。あれは笑いに関していわゆる素人の人々が票を投じて、10組中オンエアできる5組を選出するという画期的な番組であった。

 「オンバト」の決勝大会では200人の審査員が優勝者を決めていたが、「THE W」ではその倍に値する401人の審査員が待ち構えている。その母数の多さがどのような結果をもたらすのか、今から楽しみにしておきたい。

M-1グランプリ2017決勝戦の感想その4

◆ファーストラウンド

8組目

ミキ

 昨年の敗者復活戦は人気絶頂のメイプル超合金を上回りながら和牛に敗れ2位の涙を飲んだ兄弟コンビ。初代チャンピオン中川家以来の兄弟漫才師ファイナリストである。

 後ろに昨年の敗者復活で敗れた和牛、一昨年3位のジャルジャルが控える重圧の中で勢いに満ちた掛け合いを見せてくれた。弟のボケ・昂生から漢字の教えを請うた兄・亜生がそのレクチャーに動きボケを交えながら奮闘するシンプルな展開。「鈴木」という簡単な字を伝えるために甲高い声を発しつつゼスチャーで表現する兄の健気さと、その気も知らないで飄々(ひょうひょう)といなす弟との温度差が最後まで持続されていた。シュッとした見た目で女性人気も高いと評判な弟の泣き演技で「ドルドル」「ペソペソ」は女性客向けかな、というあざとさも感じないわけではなかったけど。

 あと弟が兄を北朝鮮の総書記イジリするくだりで、兄が「何で偉いのに書記やねん!」とツッコむくだりはカルチャーギャップを感じた。まあ学校で書記っていうと、黒板に字を書いてばっかりなイメージあるのかな。付け加えると、ネタ後にミキの2人が司会の今田耕司上戸彩のもとへ来た後でみんなで拍手するくだりがあるのだが、そのときの兄が「北の総書記」感あったと思った。

 審査員の合計得点は650点。暫定トップに躍り出て、そのまま初ファイナリストにして初の最終決戦進出を果たす。

 個人的な採点は91点。

 

9組目

和牛

 昨年の敗者復活を含めて3年連続の決勝進出。実績的には十分な優勝候補ながら、これまでの予選の評価は芳しくなかったと聞いており、今大会のハイレベルな決勝ではねるのかという老婆心はあったが、結局それは杞憂(きゆう)となる。

 ネタはウエディングプランナー。前半は男性のみが務める結婚式場「俺の式場」のサービス説明に費やされ、見ているこちらとしては「後半大丈夫かよ」という思いに駆られた。ツッコミ川西演じる新婦のミユキさんも、キャラが強いわけじゃなかったし。

 そして運命の披露宴当日。ウエディングプランナーから新郎へと役を変えたボケの水田に促され、川西は意に反した披露宴プランをこなす羽目になる。前半で説明された「キャンドルサービスいっせい点火」の伏線を川西の「~してんか!」という関西弁で回収するくだりはやや強引に感じられたものの、ジョブズスタイルの父母への感謝で一気にまくってみせる。グラフのくだりはまさに乾坤一擲(けんこんいってき)、オチの回収も見事だった。ネタが終わった直後、会場からは女性の「すごーい!」という声援が飛んだ。

 審査員の合計得点は653点。ミキを上回り暫定1位、そして最終決戦進出。

 個人的な採点は95点。

 

10組目

ジャルジャル

 新ルールの「笑神籤(えみくじ)」に最後まで翻弄(ほんろう)された一昨年の3位ジャルジャルが、己の集大成と言える漫才を披露した。

 ネタは校内放送の「ピンポンパン」をボケの福徳がゲームに昇華し、ツッコミの後藤がプレーで悪戦苦闘するというある種のストロングスタイルな漫才。テレビのチャンネルをザッピングして、途中から彼らの漫才を目にした視聴者は「???」と思ったことだろう。

  ネタ開始からは1分ほど全く笑いが起こらず、福徳の「ピンポンパンライス」の説明で大きな笑いが起こり、終盤の後藤の「背筋伸びてるやん!」のツッコミで聴衆の反応がピークに達する。トリッキーな設定ながら後半につれて盛り上がるというM-1必勝法の典型のような展開で、ジャルジャルの2人もネタの途中はすごく気持ちよかっただろうと思う。個人的にも、2年前にファーストラウンド1位で突破した「ちゃがうわ!」のネタよりポップになっていて成長を感じた。

 審査結果の表示前から福徳は興奮状態で、小出しにボケる後藤に「なんだよそれ」とボヤいていた。そして審査員の合計得点は636点。ファーストラウンド6位に終わる。

 その瞬間、福徳は採点結果が表示された大型モニターを見ることができずに顔をそむけ、顔を紅潮させしゃがみながら髪をくしゃくしゃにした。審査員の講評を聴いているときには、うっすらと目に涙をたたえているのが見えた。このくだりは、今大会のクライマックスの一つに数えられるだろう。

 個人的な採点は94点。

 最終決戦進出は以下の3組となる。

とろサーモン

ミキ

和牛

 和牛は2年連続の最終決戦進出。3番手と早い出番だったラストイヤーのとろサーモンは、後続の強豪を粘り腰で退ける形で優勝への王手をかけた。

 ファーストラウンドでの個人的な採点のベスト3は和牛(95点)、ジャルジャル(94点)、さや香(93点)。ただラスト3組がそのまま最終決戦進出でも異論はなかった。それほど最後まで目が離せない、ハイレベルなファーストラウンドだったと思う。

 

 続きます。

M-1グランプリ2017決勝戦の感想その3

◆ファーストラウンド

6組目

マヂカルラブリー

 彼らを初めて見たとき、ボケの野田クリスタルはランニングにGパンに裸足というアグレッシブなファッションをし、トリッキーな動きボケでツッコミの村上(ちなみに本名は鈴木)を翻弄(ほんろう)する尖った漫才をしていた。あれから幾星霜(大げさ)、2017年M-1決勝という大舞台に野田はYシャツネクタイという正装ながらジョジョ立ちをしながら登場するという気合の入りようを見せてくれた…のだが。

 いや、観客はそこそこ笑っていたし、リアルタイムで見てそんな悪いネタという印象もないのよ。演者と見せかけて客という天丼も途中までは機能していた。立ち見あたりでしつけえなと僕は思ったけどw「木戸銭返せや」という思いには一切至らなかったけど、まあこれはファーストラウンド最下位やろうなという確信が私にはありましたのです。それまでレベルの高いネタが続いていたしね。

 審査員の合計得点は607点。

 私の個人的採点は85点。プロたる審査員は私などより厳しい採点で、絶対600点は切ると思っていて、意外と優しい審査だなと思ったくらいだが、ここからマヂカルラブリーは芸人人生の剣が峰に立たされてしまうw

 上沼恵美子の「よう決勝来れたな」はむしろ優しい助け船に思えた。その直前の「上沼えみくじでした」が、もう取りつく島もねえなという感じだったので。

 しかし結局中途半端に脱いでしまい、会場を凍てつかせた野田クリスタルよ。まああれよ、人間は生きている限り成長できる生き物だから落ち込むなやw

 

7組目

さや香

 コンビ結成4年目にして大舞台を射止めた20歳代の若者2人。私は彼らのネタを見たことがないにもかかわらず、戦前の予想で最終決戦進出の1組に挙げていた。カッコいい表現をすれば、恐れ知らずの若者の勢いにかけたのであるw

 フタを開けてみれば、まさにいい意味で裏切られた。いわゆるシュッとした見た目でスーツ姿の2人だから、若さに似合わぬ軽妙なしゃべくり漫才を見せてくれると勝手に想像していたのである。

 それが実際はかなりのストロングスタイル。ツッコミ石井の演じる歌のお兄さんに、初めは全くの無知だったボケの新山がのめり込んでいく。ヘッドバンキングに始まり舞台を使った大きな動きボケ。中だるみしそうかなと思ったタイミングで石井の歌唱に「桑田佳祐?」とささやくボケをはさむのは良かった。そして最後は坂本九の歌唱といずみたくの詞で知られる名曲「幸せなら手を叩たたこう」に乗せて再び新山がヘッドバンキングという、構成のひねりも感じられて気持ちのいいネタであった。

 私は個人的採点でこれまで最高の93点をつけたが、審査員の合計得点は628点にとどまる。さっきのマヂカルラブリーとは逆に、辛めの審査かなと思った次第だ。確かにスタイルもネタも粗削りだから、減点しやすいタイプの漫才だという印象だけどね。

 

 続きます。

M-1グランプリ2017決勝戦の感想その2

◆ファーストラウンド

3組目

とろサーモン

 ラストイヤー。このコンビはお笑いブーム真っただ中の2000年代前半、「爆笑オンエアバトル」に出場しセミファイナルの実績を既に得ており、「すかし漫才」などの挑発的な芸風で目立っていた。その実力は、旧M-1(2001~2010)時代に決勝へ駆け上がっても全くおかしくなかったが…。

 実を言うと彼らのネタはここ数年全く見ていなかった。オードリーの「ズレ漫才」の先駆けとも言ってよい「すかし漫才」のスタイルは捨て、ボヤキ漫才の芸風に移行していた。ボケ・久保田のすさんだキャラクターに合ってはいたが、結論から言うと私にはあまり響いて来なかった。

 久保田がツッコミの村田に毒づいた後、旅館の仲居を演じるのだが、ちょっとセリふの噛みが目立った。ネットでの評判で「1本目から彼らは落ち着いていた」と評価する声を読んだが、私は久保田が緊張していると感じた。

 それに旅館のくだりに入ってからの笑いどころが、あまり面白く思わなかった。猿が内風呂に入っているとか、追い払うための変な呪文も時間を使った割には…という印象。「日馬富士ですか?」とアドリブ気味にぶっこんだのは面白かったけどね。今のとろサーモンの芸風なら、そういう方向にネタを広げてほしいかな。

 審査員の合計得点は645点。

 個人的な採点は87点。

 「あれ?ちょっと高くね?」ととろサーモンの審査結果を見て思ったが、今大会は強豪がこの後もズラリと並んでいるので、まあファーストラウンド終わりは4位か5位あたりだろうと予想していた。

 

4組目

スーパーマラドーナ

 敗者復活。合コンネタだが、敗者復活戦でやったネタとは違うらしい(私は敗者復活戦のテレビ中継は見ていなかった)。

 3年連続の決勝、ボケの田中の変人キャラも浸透してきたこともあってか、笑いどころの手数を増やしてきた印象を持った。しかしどうしても、昨年インパクト大だったエレベーターネタと比べてしまう。

 冒頭の「(合コンの参加者に)オネエがおった」という伏線が張られるのだが、俺はいわゆるLGBT的なオネエではなく「田中のお姉ちゃん」が参加しているのだと勝手に予想していたのである。その方向はあれか、2010年のパンクブーブーと被るから回避したのかな。実際のネタバラシも、前回のエレベーターに比べると「やられた、裏切られた」感が少なかったね。武智のツッコミも「クスリやってんのか!」以外は存在感薄めだったのが気になった。

 審査員の合計得点は640点。

 個人的な採点は90点。

 

5組目

かまいたち

 キングオブコント2017のチャンピオン。他局にもかかわらずネタ前の紹介VTRでもガッツリ触れられており、新鮮な思いがした。

 ツッコミ濱家の怖い話に「イラッとする」と山内が難癖をつける。どことなくブラックマヨネーズを思い出す。山内が演じるトイレの花子さんの「気まずい感」も、濱家の「どこに私情をはさむ余地があんねん!」とやり返すツッコミも良かった。中盤まで非常に勢いを感じて、最終決戦行けるかな、2冠に近づくかなと個人的に思ったほどである。

 ただ後半、ややしぼんだかな。「ムキムキで額に卍を書いた男」を最後まで押していたが、そうするほど強いボケでもなかったと思ったが。

 審査員の合計得点は640点。スーパーマラドーナと同点のまま暫定2位に。

 個人的な採点は92点。後半が弱いと感じて1点減点した。

 

 続きます。

M-1グランプリ2017決勝戦感想その1

◆ファーストラウンド

トップバッター

ゆにばーす

 「ぷっすま」でサンドウィッチマン富澤の顔まねをしていたはらちゃん、「アメトーーク!!」のUSJ芸人に出ていた川瀬名人がこの決勝の場に立つとはな…などとよけいな感慨を抱きながらその雄姿を見ていた。トップバッター、しかも「笑神籤(えみくじ)」という新ルールで直前まで出番が分からないという過酷な状況にもかかわらず、2人とも落ち着き払って漫才をしていたのがとにかく驚いた。あまりに落ち着いているので、「くじは実は演出で、初めから順番を知っていたのでは?」と勘繰りたくなったほどであるw

 採点後に松本人志も語っていたが、とにかく観客のウケがトップと思えないほどよかった。はらちゃんが中村あゆみ翼の折れたエンジェル」を絶唱するくだりとか特に。確かに頭をくしゃくしゃにしながら中村あゆみを歌うはらちゃんなんて絵面自体が面白いが、何しろ30年以上前の曲でここまで観客は受け入れるかねと不思議にすら思った。

 ネタの盛り上がりはこの中村あゆみがピーク。オチは今大会の決勝組に多く見られた伏線回収系でキレイではあったが、パンチはやや弱かった。

 審査員(上沼恵美子、松本、博多大吉、春風亭小朝中川家礼二渡辺正行オール巨人)の採点は合計626点。

 個人的な採点は88点。

 

2組目

カミナリ

 どの動物が最強か、というネタは、さまぁ~ず大竹の「ゴリラ最強説」を思い出すなwコントのネタではなく、著書や今は亡き「リンカーン」などで繰り返し大竹が力説していたんだけど。

 このネタは以前も見たことがあるが、たくみがまなぶの頭を例の如くはたいた後の1発目に出た「バトルフィールド」というワードチョイスはしっかり笑えた。ただクライマックスの「熊かわいそうだな!」「自衛隊にハンマーのイメージねえな!」のツッコミは大きな笑いが取れるワードではなかったと思う。終盤に向かうにつれてはたきツッコミのスパンが短くなる展開はよく練られていたと感じただけに。

 審査員の合計得点は618点。昨年は81点を出し、カミナリと因縁の深い上沼恵美子は90点をつけた。

 個人的な採点は89点。

 

 続きます。